特別な瞬間を撮ることに
やりがいを感じる

坂野 彰太郎

坂野:子どもの頃からテレビが大好きで、ずっとテレビの仕事に就きたいと思っており、番組制作を学ぶために地元の名古屋から東京へ進学しました。ただ、学ぶうちにCMやショートムービーに魅力を感じるようになり、最終的にはCM企画を扱う映像演出研究室へ進んだんです。その後、愛知県の企業で映像制作をしたいと考え、ブライダル映像などを扱う株式会社ムーブに入社し、まもなく1年になります。
谷口:彼は寡黙で、言葉を一つひとつ選ぶ性格なので、採用面接のときにも言いたいことが言えなかったようで。それでも採用担当者には何か感じるところがあったんでしょうね。職場での様子を見ていても、カメラ雑誌や広告専門誌の最新号をまず自分の席に持っていくんです。棚にないと思ったら、だいたい彼の机に置いてある。そういう風に、自分の時間を使ってチャンネルや価値観を広げられるタイプですね。
坂野:大学で企画ばかりやっていたので、カメラの知識が全然足りなくて。知らないから、こだわることもできない。まだ勉強中なので、今回の撮影はカメラマンに頼ったところも結構あります。

谷口 北斗

谷口:撮影現場でも、急に「ここ、ちょっとズームを……」と言い出して、「一眼レフで撮ってるからズームはできないよ、わかってないなぁ」とカメラマンに叱られる場面があったりしましたね。
坂野:今いるブライダルの現場には人それぞれの気持ちと、場面があるんですよね。例えば新婦の亡くなったお父さんに感謝する気持ちとか、若くして授かり婚に至ったカップルが親に感謝する気持ちとか。普段はわからない、ただ特別な1日だからこそ気持ちを表す場面があって、「人生に関わる特別な瞬間を撮っているんだ」といつも感じます。だからこそ失敗できないプレッシャーもありますが、毎回が特別な時間だということにとても刺激があって。今は入社時以上にやりがいを感じています。
谷口:ブライダルの現場は、過去から未来まで全部、人の人生が見える場所です。2つの家族が一緒になるのをきっかけに、お互いの家族との関係や、友達に対する感謝といったことも、全部結婚式の1日に詰まっているんですよ。

1年目の新人がディレクターに立候補!

谷口:会社で人材開発のために「技術力と知識力をつけて、提案力を上げよう」という取り組みがあり、その一環で社員が参加する月1回のワークショップを開催したんです。そこで、社員から「ワークショップでPMA応募用の作品を作りましょうよ」という提案がありまして。朝から1~2時間ほど、今回の「感動」というテーマに対して、揉みこんでいきました。例えば、YouTubeで人気の感動CMなどを観て、「何を感じたか」を書き出し、その中から感動を形成するためのエッセンスとなる共通点を探していく。ひたむきさや親子愛、家族……それを重ね合わせることで、コンテンツとしての「感動」が構築できる、といったこととか。

次に、映像のタイプを「企画もの」と「演出もの」に大まかに分け、「各1本ずつ採用するから、みんなで企画を考えよう」と、3時間ほどで約50案出しました。企画ものでは「親父の背中」、演出ものでは「青い」が採用されて、この2本でPMAに応募したんです。「青い」を作るにあたって……雨を降らせたい、と(笑)。「雨降らし」といえば専門家がいるような演出なのに、それを自分たちでやってみようという発想と、言葉にならないような葛藤感を描いていたので、映像として表現するなら言葉にならない部分を伝えたいと思って採用しました。会社が用意した予算は2本で10万円でしたが、9万円は雨降らしに消え、残り1万円ないほどの予算で撮ったのが「親父の背中」で。しかも実は彼ではない、別の女性社員の企画だったんです。自分の父親が職人で、息子、つまり彼女の兄弟がちょうど将来をどうするかというタイミングにあり、そこを記録したいというコンセプトでした。ただ、家族の話を身内が撮るのは、面白いけれど個人的なものになりかねない。そこで、坂野がディレクターをやりたいというので預けてみました。

坂野:最初「やりたい」と名乗り出たら、「お前にはまだ早い」と言われて、任せてもらうまで1週間かかりました(苦笑)。
谷口:1年目の新人ですからね(笑)。彼自身がまだ23歳で、親父、職人というテーマに対して人生経験が足りないかもしれない。結婚して、子どもでもいればある程度の相手の気持ちがわかった上で聞き出せるし、興味のポイントも違うと思うんです。それで「ちょっとまだ早い」と。できるかもしれないけれど、下手したらつぶれかねない。ただワークショップの一環でもあるから、いざというときはフォローするつもりでやらせてみることにしました。
坂野:大学でいろいろな企画を考えていたので、チャンスがあったらやってみたかったんです。今なら、当たって砕け散っても構わないと思って。普段は寡黙な方なんですけど、こういう時はわりと出しゃばりますね。
谷口:芯が強いよね。自分に必要なことは自分でちゃんと決めている。そこは信頼していますね。

 

構成しすぎず、演出しすぎず、
引き出すためには

坂野:制作にあたって、まずは職人さんを撮ったドキュメンタリーを何種類も、何回も繰り返し観て、撮り方や雰囲気を吸収していって、この作品に落とし込みました。そのまま真似しないように、でも最初は真似から始まると思っているので。自分の年齢をお父さんに近づけることはできないので、何で補うか考えたら、職人さんの映像をとにかくたくさん観ることしかできない。それからまず一通りの構成を考えて、チームで話し合ったんですけど「型が決まりすぎじゃないか」と言われました。
谷口:「こういう風にできなかったらどうなるの?」って言われてたね。
坂野:木工のお仕事なので、親子で小さい椅子とか、一緒になにか作ると面白いと思っていたんですが……ロケハンしてみたら「お父さんは現物をつくるのではなく、製図しかやらない」とか「息子さんもお父さんとは作るものが違う」とか、案の定、想定と違うものになって、一度は企画ごとコケそうになりましたね。
谷口:インタビューの1週間前くらいまで「これは無理じゃないか」って話が出ていたしね。

坂野:そこで、自分で先にすべて構成を考えるより、ある程度だけ決めて、インタビューしてからちゃんと考えよう、と切り替えました。考えてから撮るんじゃなくて、撮ってから考える。それと並行して、撮影の1~2週間前くらいから毎回、業務の最後に1~2時間かけて、谷口部長と相談しながらインタビューの質問内容を決めていきました。
谷口:最初に僕がお父さん役でシミュレーションしてみたら、「この店はいつからなんですか?」、「創業100年です」、そして沈黙……という状態で(笑)。そこは「100年にもなるんですね、じゃあ今、何代目なんですか?」と膨らませないと。話しながらもいろいろなキーワードを頭の中に入れておいて、頭の中でもあれこれ編集してみて、欲しい言葉が出るまでひたすら声をかける。もちろん取材はしっかりしなくちゃいけないけれど、そういう意味では僕たちディレクターは半分話を聞いてない部分もあるからね、といったことを伝えました。
坂野:会話のキャッチボールがあまり得意ではないので、思った以上に、大きな課題でしたね。構成を作るのは得意なんですけど、素材を引き出していく力が足りなくて。
谷口:構成がよくできていても、お父さんから構成通りの言葉は出てこないかもしれない。そこで我々が演出しすぎて、お父さんが「これ俺の話じゃないな」という作品になるのが一番良くない。今ある情報を固めて、キーワードを出して、言葉が出やすいようにお膳立てしていきました。

坂野:「息子についてどう思っているか」を話してほしいけれど、ナイーブな話題なので、ストレートに聞くのは踏み込みすぎかなと考えてしまって。それが現場では、お父さんの方から話してくれたんです。狙ってはいなかったものの、思わぬいい話を聞けました。
谷口:あの「人生を縛っちゃったかな」という台詞で、作品に深みが出ましたね。そこまで話していただけてよかった。
坂野:お父さんは「俺の人生を切り取ってくれたんだね」とすごく喜んでくださっているそうで、入賞したことでさらに喜んでくれました。なによりお父さん自身が喜んでくれたことにホッとしたし、他の人におめでとうと言ってもらうよりもっとうれしかったです。

“お父さんの人生”を渡してあげないと

坂野:ファーストカットの飾り格子は特徴的なものだったので、大先輩であるカメラマンに「撮ってください」と伝えたのですが、あの色で、あの感じで撮ってくれたのは、カメラマンのおかげですね。私では絶対撮れない画の作り方だったんで、感謝というか、あらためて尊敬の念を覚えました。
谷口:実はあの工場、道を挟んですぐ横を新幹線が走っていて、もう5分おきくらいに「ゴーーーッ!」とノイズが入るんです。ただ「ちょっとすみません、音が」なんて止めちゃうと、もう「で、なんでしたっけ?」ということになって全部空気が壊れてしまう。だから、何度も回しながら質問のタイミングを計って「今だ、聞くぞ!」っていう感じでした。
坂野:使いたかったところも「ゴーーーッ!」が被ってたりしましたね。
谷口:それでも、工場で撮らなきゃ意味がなかった。そういえば、編集作業のときに「オーディオの使えるところだけをmp3にして、通勤電車の中でずっと聴いて、編集に使えそうな部分をメモっとけ」と言ったけど、あれはやってみた?
坂野:やりましたよ。一週間ずっと耳元にお父さんの声が(笑)。
谷口:(笑) 。それで一番いい台詞を選んで、後は画を入れていけば形になるからね。
坂野:本当はもっといい話もあったんですけど、全部入れたら5~6分になっちゃうとか、じゃあここは捨てなくちゃとか、そういう編集が大変……というよりも心が痛かったです。
谷口:今回の作品は2分で完結してるから、あれはあれでいいけれど、お父さんと家族のためにもっと長いものも作ってあげるといいね。あの場で語ったことって、ご家族に対してすごく大切なものが一杯あったと思うんですよ。それは僕たちだけが抱えているんじゃなくて、ご家族にお渡しした方がいい。お父さんの人生を渡してあげないと。よし、夏に長期休暇をとって作るか!

新人だからこそやってみるべき

坂野:PMAはブライダル業界の有名な方も応募しているのに、思い切りブライダルという作品は少なかったですね。びっくりしましたけど、それも面白いですよね。
谷口:うちもブライダルっぽい作品はやめようと言っていました。幅を広げたかったので。
坂野:ブライダル以外の技術をつけたかったですし。
谷口:そもそもブライダルって、1人完結型の制作がすごく多いんですよ。当日1人で行って、撮って、放映してくる。だから逆に、周りとの連携に疎くて。進行表が準備されていてそれに従って進んでいく、一から作ることがないんですね。今回ワークショップを始めたのは、スタッフに制作や照明、カメラマンといった役割を与えて、連携しないとひとつの映像が作れないという状況を体験させたかったんです。それに、お父さんはどういう人かというリサーチから始めて、プランナーではなく自分たちが現場を盛り上げていかないといけない。その力が我々にももっとほしいよね、と。

坂野:入社して1年も経っていないのに、審査員賞という結果がついてきたのはもちろんうれしいですが、それにも増してPMAがいろいろなプロの映像を知る機会になったことがうれしかったです。ノミネートされたことで、授賞式で初めて出会えた人もいますし。若手が応募するにも、絶対面白いアワードですし、新人だからこそやるべきだと思います。僕にとっても、何を目標にすればいいか見つかるきっかけになりました。
谷口:「感動」って映像においてはこちらのものではないっていうか、観てくれる相手からしか生まれないと思います。それがわかりやすいというか、挑みがいがあるというか、人それぞれで解釈できるっていうところがすごく好きですね。
坂野:私にとっては言葉にしなくても、見てわかるものですね。1枚の写真で感動することもある。そこにあるものを撮るだけって言ったら言いすぎですけど……感動とはそこにあるもの、そういうことかもしれないです。

坂野 彰太郎

坂野 彰太郎

株式会社ムーブ 開発部

1993年10月15日生まれ。愛知県出身。2016年東京工芸大学芸術学部映像学科卒業後、株式会社ムーブ入社。開発部テクニカルプロデュース課に所属。ブライダルビデオグラファー。入社1年目でディレクターを任され初作品「親父の背中」でPMA審査員賞を最年少で受賞。

谷口 北斗

株式会社ムーブ 開発部 部長

1979年9月19日生まれ。山口県出身。映像専門学校を卒業後、映像機材店で研修後、コマーシャル、MV、映画の撮影部を経て、株式会社ムーブに就職。販促映像制作部門を経て、現在は開発部部長として人材開発を行っている。感動を追求するという理念に基づき、技術・知識・提案力の底上げを行っている。

FINAL SELECTION

 

花咲音誕生/市井義彦

素直に感動しました。これから家族ができる、妹ができてお姉さんになる気持ちというのがすごく伝わってきました。やはり撮るものよりも映すものが大事だなと思わされました。