「撮りたいものがある」というモチベーションで響き合った想いと想い 大石 健弘 x 草苅 桃子 「撮りたいものがある」というモチベーションで響き合った想いと想い 大石 健弘 x 草苅 桃子
 
映像制作のきっかけは、近所のレンタルビデオ店

大石:草苅さんは、どうして映像を作り始めたんですか?
草苅:高校生のとき、近くに小さいレンタルビデオ店があったので、友達と映画をたくさん観て「2人で映画を撮りたいね」と話していたんです。その後ビジュアルデザインの専門学校に入って、映像制作も学ぶ中で想いがだんだん大きくなりました。授業の一環でCM制作会社での研修があり、そこで知り合った方が撮っている自主映画を手伝わせてもらったのがすごく面白くて。以降は自主映画のスタッフ募集に応募したり、卒業制作でも自主映画を撮ったり。卒業後はテレビ番組のADや映画の助監督をしていたのですが挫折して、4年くらい接客業をしていました。
大石:接客業って、全然違う業界じゃないですか!
草苅:そうなんです。(笑) でも1年半前に、今の映像制作会社に入りました。今はエディターと、撮影時のアシスタントをしています。上司がカメラマン兼ディレクターなので、カメラを教わりつつ。
大石:じゃあ、映像制作業界に戻ってきたんですね。僕も、家の近くにレンタルビデオ店ができたのが、映像にのめり込むきっかけでした。身近に映像を観る環境ができるのは大きいですよね。そう考えたら今の世代なんて、みんな映像を観ることがすごく身近じゃないですか。
草苅:そうですよね。YouTubeもあるし。
大石:身近過ぎて、憧れる気持ちすらないかもしれないですね。実は小学4年生の従兄弟の子がYouTubeに動画をアップしていて、見てみると「この歳でもうこんなにできちゃうの?」という仕上がりで驚きました。彼らの世代が将来大人になったらどういう映像を作るんだろうというのは、本当に興味があります。

「撮りたい」ものがあるから映像を続けている

草苅:World Theater Projectという日本のNPO法人があります。途上国の子どもたちに移動映画館で映画を届けるという活動をしていて、現在はカンボジアで活動をしています。ただ、日本からスタッフが渡航してカンボジアへ届けるとなると、回れる場所や数に限界がある。それで、カンボジア人の映画配達人を育てて、現地だけで上映が完結する仕組み作りもしています。
大石:「村に映画がやってくる日」は、その活動の一環としての映像ということですよね?
草苅:そうです。現地スタッフを育成するために日本人がカンボジアに駐在していたのですが、私はその駐在する方がカンボジアへ行く際に、取材ということで同行しました。
大石:取材はお仕事として依頼されたのですか?
草苅:いえ、自分が「撮りたい」と思ったので。World Theater Projectの活動報告会で、映画を見ている子の笑顔の写真を目にして「私も実際に見てみたい、そして写真だけでなく動画を作りたい」と。
大石:自ら手を挙げて行ったんですね。やっぱり、そのモチベーションが大事ですよね。自分がなぜ映像を作っているかというと、もちろんお金のため、生活のためもあるんですけど、でもそうじゃない部分、「この映像を撮りたい」という想いがあるからこそ、これまでもずっと撮り続けられているんだと思います。「村に~」の映像には、「あ、この人はこの映像を作りたくてここへ行ったんだろうな」という想いが見えたんですよね。子どもたちの喜んでいる笑顔が見たい、それを映像に残したいという想いが垣間見えたので、共感できた。
草苅:それが、まったく知らない方に映像だけで伝わるなんてビックリしました。嬉しいです。
大石:多分、そういう想いでやっている人には伝わると思いますよ。

作品づくりを通して、映像のもつ力を再認識できた

草苅:「村に~」の中で、映画を上映している場面の最初で子どもたちが笑っているカットは、私自身も初めて見た“映画で生まれた笑顔”だったんです。その瞬間は本当に感動して泣きそうになりました。村によっては、本当に映画というものを知らない、初めて見るという子もたくさんいて。テレビがある家庭もあるんですが、あまり子ども向けのアニメなどは放映していないみたいですし。教室で上映していると子どもが次々に集まってきて、どんどん増えていくんです。
大石:あの場に居たら絶対嬉しいと思うんですよ。子どもたちが、自分たちの生業としている映像でこんなに笑顔になる。自分も「映像ってこんなに力を持っているんだ」というのを再認識できるし、それをもっと広めるために、この瞬間を作品として残せるなんて、すごく幸せなことですよね。
草苅:はい。この作品をWorld Theater Projectの報告会で流したら、「こんなに喜ぶんだね。協力したくなったよ」という声もあったそうで。それに「大石さんに選ばれた」というメールをいただいたときもすごく嬉しかったです。私のことを何も知らない方が選んでくれた、純粋に作品をいいと思ってくれたことに感激して、すごくモチベーションが上がりました。
大石:「自分が選んだ作品」として紹介されるものだから、自分自身を説得できるような理由がないと選べないと思って、すごく悩んだんですよ。そこで、自分はドキュメンタリー、リアルな想いを伝えることが好きだから、それを軸に選んでみたかったのと、「この作品を自分が撮りたい」と思うかをポイントにしようと思ったんですね。草苅さんの作品はモチベーションが自分に近いというか。子どもたちが映画を心待ちにしている、そこに映画を届けて、幸せな空間を作るということだけでも素敵だし、それをわざわざカンボジアへ撮りに行って、作品に残すところに共感できた。正直なところ、僕だったらもっとこうしたいという点は多々あるんですよ。でもそれ以前のモチベーションとか映像に残したいという気持ちが大事だし、その欲求が作品から見えたことが僕にとっては一番惹かれる要素でしたね。

 
感動している人を撮りながら、自分自身も感動している

草苅:カンボジアはすごく色鮮やかな国なんです。空が真っ青で、土が赤くて、木も、日本の木とはちょっと違う色で。その中で、子どもたちは裸足だったりサンダルで駆け回っていて、土埃がすごくて……というような空気感を込められるように、なるべく自分の目で見たものと、映像の色を同じにしたいと思っていました。自分の中では、技術が足りないなりにも色には満足しています。もちろん、もっときれいにも撮れると思うんですけど。
大石:ただ、画質はカメラを替えたり、カメラマンを入れればいい話かもしれなくて。多分草苅さんには、そうじゃない部分のモチベーションがあったと思うんですよね。それが作品に宿っているのかな。
草苅:2分の作品の中で、観た人も自分が体験した感動と同じような感覚になってほしかったんだと思います。一番見せたかったのは子どもの喜ぶ顔ですけど、その笑顔は、志あるスタッフがいて、何時間もかけてフィルムを運んで、設置して、初めて見られるわけで。実は、使えなかったカットもいっぱいあるんです。
大石:だって、使えなかったカットの方が多いですよね、絶対。
草苅:何もわからない状態で行ったので、回し過ぎてしまって、素材は60時間分もあるんですよ(苦笑)。
大石:(笑)。PMAのことはどうやって知ったんですか?
草苅:カメラマンの先輩から教えてもらいました。カンボジアにはもともと長編のドキュメンタリーを撮るつもりで行ったものの、帰国してからしばらくは……素材を観ると、その時の感情や考えや情景が込み上げてきて、それが強すぎて受け止めきれないような状態でした。自分の撮影の未熟さも感じてつらくて。それで、しばらく置いていたら先輩が「このまま時間が経ったらまずいんじゃないか」と、PMAのことを教えてくれたんです。テーマが「感動」と知って「これだ!」と思いました。カンボジアの子どもたちが感動する様子に自分自身も感動した、そういう映像なのでピッタリだと思って。
大石:素材を観るのがつらいとは意外ですね。僕は、自信のない撮影だった時は観るのがつらいこともありますけど、大抵の作品では素材は何度でも観返します。それで「いい画撮れたよ~」って泣く(笑)。この職業に就いてよかったと思う瞬間ですね。僕がPMAを知ったのは、友人がFacebookでシェアしていたのが最初のきっかけで。テーマが「感動」というのを目にした瞬間に「よし来た!」と勝手な自信を湧かせていました(笑)。
草苅:本当にピッタリですもんね。「麻里子の教室」も拝見しました。あの、最後の記念撮影で失敗して、「ゴメンゴメン」となっているところに麻里子さんの人柄がすごく出ているなと思って。
大石:そうなんですよ。応募作の「響子先生への家族授業」に登場した響子さんも「麻里子~」が大好きで、本人からよく「あの作品はホントに好きです」と言われていたんです。響子さんの旦那さんからも、2人が結婚する前に「響子が『いつかあんなサプライズをされてみたいな』とボソッと言っていたんだよ」と聞かされていて。それで「響子先生~」のような作品を作ってあげたいなと。僕はYouTubeにブライダルビデオをたくさん公開しているので、ブライダル業者だと思われがちなのですが、実は全部友達のために作った作品なんです。麻里子さんも僕の親友で、出演者のほとんどが高校時代の友達です。
草苅:素敵ですね!友達があれだけ集まるということもすごい。
大石:ブライダルビデオを作り始めた6年前の頃は、たった3人だった協力者(友人)が、作っていくうちにだんだん増えてきたんです。「麻里子の教室」では30人くらい、その2年後に作ったビデオでは180人くらい集まりました。
草苅:180人……!
大石:3人だった頃は、僕も友人もやらされている感があったかもしれません。でも、作ることを重ねていったら、みんなが「ブライダルビデオを作るのは楽しい」、「誰かのために頑張るって嬉しい」、「誰かをお祝いしたい」、「人を幸せにするって自分も幸せになるね」って、気づいてくれるようになったんだと思います。その経験で僕も「主体性が一番大事なんだな」ということに気づいたんですよ。

互いのいいところを組み合わせて第2弾を作れたら……

大石:子どもが去年生まれまして。その笑顔とか、怒っている顔とか、泣いている顔、いろいろなものに反応している表情を見るだけで泣けるんですよ。自分の子どもだけでなく、例えば草苅さんの作品の子どもの表情や、他人の子どもの表情も、見ているだけで本当に泣けちゃうんです。よく妻に「え、なんでそれで泣くの!?」って言われてます(苦笑)。子どもって、大人が想像し得ないような反応をするし、忘れていたり気づいていないような“人間ってこういうものなんだ”という表情を見せる。そのときに「これを撮りたいな」と。今後は世界の子どもたちを撮りたいと思っています。いろいろな表情を集めて、ひとつの作品にしてみたいです。
草苅:世界の子どもたちを撮るの、すごく素敵ですね。ぜひ観たいです。私は、カンボジアで撮った素材を、60分程のドキュメンタリー作品にまとめたいので、それを完成させるのが一番の目標ですね。
大石:僕たちで一緒に「村に~」の第2弾を撮りましょうよ。
草苅:やりたいです! 2人いればもっと撮れた映像がたくさんあったし、アイデアもいろいろ出るので。
大石:僕も「村に~」は、観ていて「もっとこうしたい」と、いい意味で思える映像でしたし。完全なるドキュメンタリーとしてカメラを回すだけではなく、ちょっとした仕掛けで、子どもたちのもっと喜んでいる表情を引き出したり、働いている子もいるというリアルな側面を残すといった建設的な議論ができると思います。
草苅:大石さんは演出に力があるし、言葉がすごく力強いなと思います。周りを巻き込んでいく魅力をお持ちだから、180人も集まるんだろうな、と(笑)。前向きなエネルギーにもぜひあやかりたいです。
大石:草苅さんは撮りたくて自らカンボジアへ行ったわけじゃないですか。僕は、いざその立場になったら、多分行けないです。僕がブライダルビデオを作るときは、「作ってほしい」と頼まれたり、「結婚するよ」と報告を受けたり、そういうきっかけがあるから作れるわけで。自分から全部きっかけ作りをして一歩踏み出すって、相当な力が要ると思うんですよね。それを踏み出した草苅さんをすごく尊敬しています。

大石 健弘

映像ディレクター/株式会社Happilm 代表

1983年 静岡県浜松市生まれ。高校時代より映画制作を始める。横浜国立大学卒業後、CM制作会社に制作部として入社し多くのCMに関わったのち、独立。現在ではディレクターとして活動中。監督作に、バンホーテンココア「理想の母親」や不二家ミルキーTVCM「みんなの笑顔」篇など。ライフワークではサプライズ映像も多数制作しており、YouTubeのHappilmチャンネルにて公開している。
︎http://www.takehirooishi.com

草苅 桃子

映像制作

1985年神奈川県横浜市生まれ。東京デザイン専門学校卒。映画、テレビ番組の制作などを経て、映文舎へ入社。主に映像編集を担当する。本作が10年ぶりの監督作品。
︎https://worldtheater-pj.net/

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