ストーリーがなくても、あえて説明しなくても、感動はそこにある。 福井 崇志 x 近藤 正之 ストーリーがなくても、あえて説明しなくても、感動はそこにある。 福井 崇志 x 近藤 正之
 
お互いに“現場で撮る”仕事を手掛ける2人

福井:僕はフリーランスで映像を手掛けていて、普段は企業VPやプロモーション動画を作っています。PMAの応募作はどちらかというと趣味的に撮ったものですね。
近藤:僕は東北新社の企画演出部にディレクターで入って3年目です。といっても、まだ“弟子入り期間”で。中島信也をはじめ数人のディレクターについた後、今年の2月からはvivisionの児玉裕一さんについていますが、夏には独り立ちしてデビューします。
福井:企画演出部ということは、企画と演出に特化していて、編集などはしないんですか?
近藤:ディレクターなので演出が中心ですが、企画もやったりしますし、予算のない仕事だと自分で編集や撮影までやることもあります。ちなみにPMAの応募作は自主制作で、撮影も全部自分でやりました。
福井:僕は、映像系の専門学校でドキュメンタリーのコースに入ったのが映像を始めるきっかけで……まぁ、きっかけというほどでもないんですが。近藤さんはどうですか?
近藤:僕は17歳頃、“将来について考える”授業がきっかけでした。村上龍さんの「13歳のハローワーク」を読んで、広告の仕事やCMディレクターという職業があるのを知ったのですが、ちょうどその頃、テレビで佐藤可士和さんの特集を観て、広告の仕事に興味を持って。広告クリエイターは美大を出ている人が多いので、僕も予備校に通って受験しました。その予備校時代に、デジカメを買って初めてクレイアニメを作ったんです。すごい下品な……タイトルからして「トイレ」で、主人公がうんこするだけなんです。カラフルなうんこが一杯出てくるんですよ(笑)。
福井:(笑)。
近藤:それをみんなに発表したら、下品だけど笑ってくれて。その時にゾワッと鳥肌が立って「なんだ?この感覚……もっと極めたい!」と思ったんです。
福井:予備校時代から映像関連の学科に進むつもりだったんですか?
近藤:いや、予備校もデザインコースで、広告のデザインなどを勉強していました。でも、その体験をきっかけに「映像作りがしたい」という気持ちになり、大学に入ってからも映像に携わっていました。当初は広告代理店と制作会社の違いもわからなかったけれど、大学時代に「現場で撮る監督になりたい」と思って制作会社に入り、今に至ります。
これまでに九州の観光PRプロジェクト「The Wonder of KYUSHU」のムービーや、吉岡里帆さんが出演しているDIC株式会社のCM「今日は何色?」篇で、ミュージックビデオ風のメイキングムービーを作ったりしました。
福井:クリエイティブ寄りの仕事が多いんですね。僕の仕事は堅いですよ(笑)。自分としては、ドキュメンタリーやプロモーションムービーのような映像を撮りたいんですが、仕事でそういうものを撮る機会はそれほどなくて。ただ、「こういう仕事だ」と割り切らずに、「こういう風にしませんか?」と提案して自分の色を出した映像を提案するようにしています。ちなみに、クライアントがいる撮影現場はピリピリしがちですが、近藤さんの入る現場はどうですか?
近藤:まとめる人によっていろいろですが、今ついている児玉さんの現場はめちゃくちゃ楽しいです。児玉さんが冗談を言って場を盛り上げるからみんながハッピーで、作品もハッピーなものが多いからいい画が撮れるんですよね。だから僕も、楽しく仕事したいし、みんなが楽しくなる雰囲気を作りたいです。児玉さんだけでなく、最初についた中島も人を喜ばせることがすごく好きで。その人柄の延長線上に、CM制作が繋がっていっていると実感しています。

パルクールの“現場”で撮っていった応募作

近藤:「Art of Movement」はめちゃくちゃカッコいいですね。疾走感がもう、男としてはグッとくる。
福井:ありがとうございます。一生懸命走って撮りました(笑)。
近藤:え、自分で走りながら?乗り物に乗ってるわけじゃなく?スゴい……RONINで撮ってるんですか?
福井:そうです、RONINとPXW-FS7です。
近藤:(作品を観ながら)音楽もハマってますね。
福井:作品は音楽とカットのリズム感を大事にしていて、緩急をつけたりとか。後は舞台が都会の街なので、クールでシャープなイメージにしたくて、全体的にちょっと青っぽい感じで色を落とし気味にしました。ただストーリーも何もなくて……
近藤:必要ないんじゃないですか?
福井:正直、感動させようと思って作ったわけじゃないので、PMAでノミネートされてちょっとびっくりしました。何で選ばれたんだろう?と。
近藤:でも、この気持ち良さだけで鳥肌が立ちますよ。企画や構成はどうやって考えたんですか?
福井:ありがとうございます。企画というより、パルクール※のプレイヤー達と出会って、あちらはPVが欲しいし、こちらはRONINを買ったばかりなので試してみたい、だからお互い「撮りましょう!」と(笑)。構成も、何がどれくらい撮れるか自分でもよくわかっていなかったので……とりあえず、彼らがいつもパルクールをやっているスポットへ行って、どんな動きができるか聞きながら撮り方を決めて、実際にやってもらって撮る。撮り進めて同じようなカットが増えてきたら、「じゃあ今度は走ってみよう」とか。そうやって撮ったものを、音楽に合わせてパズルみたいに気持ちのいい感じで並べるという作り方で。
近藤:現場で決めていった感じなんですね。
福井:そうですね。そういう撮影を1カ月半かけて4~5回、警備員に追われたりしながらやって(苦笑)。一方、編集は1~2日で終わりました。

※障害物のあるところをどれだけ効率よく、素早く移動できるかというスポーツ。本来はアクロバティックな動きではなく、地味でも素早く動けることを良しとする移動術だったものに、徐々にいろいろな技が登場、エクストリームスポーツとして変化していった。フリーランニングと呼ばれることも。

自分のルーツを探る中での「おばあちゃんの話」

福井:「おばあちゃんの話」のおばあちゃんは、近藤さんの本当のお祖母さんなんですか?
近藤:そう、リアルおばあちゃんです。
福井:お祖母さんの様子がとてもかわいいですよね。
近藤:そうなんです、反応がすごくかわいいんですよ。子どもみたいに足を振ってたり、「(祖父は)頭がいい」って話をずっとしたり(一同笑)。
福井:そう、お祖父さんの話をするところもまたかわいいですよね。
近藤:実は祖母は認知症で、施設に入っているんです。祖父が亡くなったことを忘れてしまって、今も生きてると思っていて。
福井:そうか、生きてると思ってるんだ……認知症になってから長いんですか?
近藤:3~4年前からですね。
福井:ちょっと部屋から離れて、戸の隙間からお祖母さんのポツンとした様子を撮っている画とか、あれが間に挟まることで、ちょっと客観的に切り替えられる感じがあって。「あ、こういう発想もあるのか」と思いました。

近藤:あの時は、急にぼーっとし始めたので、ゆっくりゆっくり後ろに下がっていって(笑)。でも祖母は全然気付いてなかったですね。
福井:この生の感じもすごくいいし、作品の応募規定は“2分以内”なのに、1分ちょっとでスパッと終わらせて、余計な説明が入ってないところがすごく気持ちいいと思って。作り手はどうしても説明したがるじゃないですか。でも近藤さんはすごく潔い。見る人の想像力に任せるという姿勢を見習いたいと思いました。
近藤:ありがとうございます、うれしいです。実はもともと、“守る”というテーマの違うコンペに出す作品として作っていたものなんです。ちょうどこの数年の間で親戚がどんどん亡くなっていて、「なにかしなくていいのかな、みんないなくなっちゃったら、話も聞けなくなる」と思ったんです。自分が幼い頃は、親戚の集まる席で親戚のおじさんがしゃべるのを、当時は「うるさいなぁ」と思って聞き流したりしていたのに、今になって意外とそういう話が大事だと気付いて。一度、自分のルーツを探りに行こうと、祖母だけでなく、いろいろな親戚を回って、話を聞きに行ったんですよ。
福井:その様子も撮ったんですか?
近藤:はい、撮りました。自分の父親や母親もみんな撮って、その中の1つとして祖母の話を使うことにしたんです。

 
“記憶を守る”様子に感動を覚えて

福井:実は、「おばあちゃんの話」はお祖母さんとお祖父さんのラブストーリーありきなのかな?と思っていたんですよ。でも、それを演出で作った感じは全然ない。インタビューは難しくなかったですか?
近藤:難しくないですよ、家族ですもん(笑)。だからいつも通りしゃべっているだけで、祖母も全然固くなってないですし。もちろん最初はカメラを構えると「いや~恥ずかしい」ともじもじしていたんですけど、途中でカメラがあることすら忘れちゃって(笑)。人の記憶ってどんどん失われていくじゃないですか。その失われる中にも大切な歴史みたいなものがあって、僕はその記憶を記録として残していきたい、守りたいと思って、この作品を作ったんです。祖母も記憶を守っているんですよね、ずっと自分の中で。それがわかるから、撮っているこちらも胸が詰まっちゃって……ただ、僕はそのことも記録した方がいいと思って。
福井:「おじいちゃんがいる」という記憶を守っているんですね。
近藤:はい。一度は亡くなったことを理解したんですけど、数年経ってまた「生きてる」と言い始めたので、今はもう、祖母との間では生きてることになっています。この様子を見て、生きてる人たちにも何か感じ取ってもらえたらと思って。
福井:1分ほどの動画ですけど、きっと、素材としてはもっと撮っていますよね?
近藤:そうですね。5~6時間撮りました。
福井:それを1分強でまとめようと思ったのはなぜですか?もっと長くしようと思えばできたのに。
近藤:あのくらいの尺ですべて語れると思ったので、長くしたいという気持ちはなかったですね。もともとは、作品の最後に「守りたい歴史がそこにある」みたいなコピーを入れていたんですよ。でも、見る人が各々で想像してくれたらいいなと思って、取っちゃいました。
福井:僕も実家では祖父母と一緒に暮らしていたので、すごいガツーンときましたね。リアルな感じで。
近藤:自分のルーツとか探ったことありますか?
福井:いや、ないですね。
近藤:面白いですよ。僕は愛知県出身なんですけど、辿っていくと、どんどん愛知を離れていくんです。岡山県へいって、最終的に九州の方へいって。それに、周りには芸術系の人がいなかったけれど、先祖を辿って行くと画家がいたりとか、そういう発見もありました。

個人のクリエイターの出番は増えつつある

近藤:今、プロとアマチュアの差がどんどんなくなってきて、誰でもすぐ動画を作れるじゃないですか。子どもの頃から携帯でムービーを撮っている世代も出てきて、さらにYouTubeみたいな発表の場まであって、誰にでもバーンと売れるチャンスがある。フリーランスの人にはすごくやりやすい時代かもしれないですね。
福井:確かに、やりやすくなりましたね。最近でも、ハイエンドの映像は大手の映像制作会社じゃないとできないから、そこは変わらない。ただミドルクラス以下の、いわゆる小規模の映像制作では、機材が軽くなったりして人数をかけなくてもいいだけに、徐々に僕らみたいな個人のクリエイターの出番が増えつつある感じがしますね。1~2人でもそれなりに撮れるし、逆に動きやすいからその方がいい、みたいな考え方になってきているのかな。
近藤:それで売れちゃうと大きい仕事も来たりするし。
福井:後は中身ですよね。一眼レフがあればきれいな画が撮れるからこそ、演出が大事になってくると思います。紙とペンは誰でも持っているけど、上手に絵が描ける人と描けない人はやっぱり違う。
近藤:それがプロとアマチュアの差ですからね。
福井:そういえば、PMAはWebサイトから全応募作品が観られますよね。他のコンペだと、データやメディアを送って、結果発表まではそのままじゃないですか。結果発表の後も、落選した作品はそのままで、入賞作品しか観られない。でも、自分の応募作は他の応募作と比べてどうなのか、こうして見比べられるのは、すごく参考になるんですよね。それにグランプリの方だけでなく、ファイナリストにもインタビューや対談の場を設けたりして、かなり応募者に寄り添ってくれている印象です。できれば入賞に関係なく、参加した人たちが一堂に集まって皆で話せたら、つながりもできるし、刺激になっていいんじゃないかと思います。そういうきっかけで「一緒に何か作ろう!」みたいな広がりがあると面白いですよね。
近藤:それなら福井さん、一緒に何かやりましょうよ。最近作りたくてウズウズしてるんです(笑)。
福井:ぜひ!僕は撮影だけでも構わないので、演出とか全部やってもらうと面白いかも!

福井 崇志

ビデオグラファー

日本映画学校映像科卒業。構成から撮影・編集まで一貫して担当するフリーランスのビデオグラファー。現在は企業VPや地方PR映像を中心に映像制作活動中。ドキュメンタリースタイルの撮影手法と映画のような映像表現で思いの伝わる映像作りを目指す。学生時代運動部だったことから躍動感のある映像を撮ることも好き。徳島県出身。東京・茨城を拠点に全国で活動中。
︎http://takashifukui.wixsite.com/takashi-fukui-movie

近藤 正之

東北新社 企画演出部 ディレクター

東京芸術大学デザイン科卒業。同大卒業制作長編映画「背中」にてサロン・ド・プランタン賞受賞。東北新社企画演出部ディレクターとして入社。中島信也はじめ横山隆平、小栗洋平に師事し現在、vivisionの児玉裕一に弟子入り中。
▶︎https://vimeo.com/user37197375

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