作品名:Art of movement
大学を出てから、日本映画学校という専門学校に入ったのが、映像の道に進むきっかけでした。映画は人並みに好きだという程度で特に詳しくはなかったのですが、「映像の仕事ができたら面白そうだな」という一心でしたね。専門学校ではドキュメンタリーを専攻しました。フィクション映画はかっちりカットを決めて撮っていくものですが、ドキュメンタリーは直接人と接しながら撮っていくので、予想出来ないことが起こったり、対象者との関係で作品が変わっていく。いわば生き物みたいなもので、そういう部分が楽しくて、ドキュメンタリーが好きになったんです。
専門学校卒業後は、ドキュメンタリー系の番組を手掛けるテレビの制作会社でしばらくADをやっていましたが、そのうち自分でも撮りたくなりまして。このままADとしてキャリアを積んでいくと、ディレクターにはなれても、カメラマンにはなれない。僕は、撮るのも好きで、撮りながら内容を考えたり、演出したりするのも好きなので、ディレクションも撮影も両方自分でやりたかったんです。もちろん、ディレクションだけという方や、カメラだけという方、いわゆる専門家の方も多い世界ですが、ドキュメンタリーは自分で撮りながら考えたりするので、両方できた方がいいと考えて。それで制作会社を辞め、自分で作品を作り始めました。
制作会社時代は、“テーマに対して3つのポイントを挙げる”というスタイルの美術評論番組を作っていました。毎回、地方の職人さんの所へロケに行って、3つのポイントを聞く取材があって。それを、カメラマン、ディレクター、AD、カメラアシスタント、照明という、比較的少人数のクルーで撮影していました。フリーランスで映像制作をするようになってからも、地方の職人さんの所へ行って、伝統工芸を紹介する取材をしているのですが、そういうときは僕1人だけとか、2人くらいの少人数で撮ってきてしまいます。そのやり方は、制作会社時代に覚えたものだと思いますね。
元々スポーツが好きで、高校はラグビー、大学でアメフトと、部活ばかりの学生時代を過ごしたので、スポーツをやっていたときの激しさや燃える瞬間みたいなものを撮りたい、映像作品にしたいという思いが昔からずっとありました。そんな中、とある自治体のPR映像で、忍者が街や山、観光地を走り回る……という動画の撮影に、カメラマンとして呼ばれたんです。そのとき、たまたま現場で一緒になったのが、「Art of movement」に出てくれたURBAN UNIONというパルクールパフォーマー集団のメンバーでした。
パルクールとは移動術のことで、障害物のあるところをどれだけ効率よく、素早く移動できるかというスポーツです。本来は「Art of movement」に出てくるようなアクロバティックな動きではなく、地味でも素早く動けることを良しとする移動術だったものに、徐々にいろいろな技が登場したりして、エクストリームスポーツとして変化していったもの。名前もいろいろあって、フリーランニングと呼ばれたりすることもあるとか。
彼らに「パルクールの映像を撮りたい」と話をしたところ、ちょうど彼らも、チームを組んでパルクールの仕事を始めようとしているタイミングだったんです。ライブのステージでパルクールのパフォーマンスを披露したり、CMに出演したりといった仕事ですね。それで「プロモーション映像が欲しいので、一緒に作りましょう」と意気投合したのが作り始めたきっかけです。
映像を撮り始めたのが昨年の2~3月、完成したのは4~5月くらいでした。撮影にかかったのは4~5日くらい。実は、ロケ地はいつも彼らがパルクールを練習している場所なんです。海外は塀や古い家といったパルクール向きの障害物が残っている街も多いけれど、日本では意外と少ないらしく、“できる場所”が限られているそうで。「じゃあ、いつもの場所で撮ろう」と、彼らに案内してもらいながら、どんな技ができるかを聞いて、何を撮るか決めていきました。
例えばスクランブル交差点に行ったときは「信号が青に変わった途端に走り出してくれ」とオーダーして、誰もいない交差点の真ん中を、前宙や側転を交えながら走ってもらったり。そういう風に、まずロケハンに行き、彼らから条件と技についていろいろ聞いて、「こういうシチュエーションが画になるんじゃないか」という技やロケーション、撮り方を選んでやっていきましたね。
オープニングとエンディングだけは、先におおよそのイメージと場所を決めましたが、とにかくパフォーマンスがすごいので、あとは技を一杯やってもらって、偏りなくさまざまなバリエーションを撮っていきました。ちなみに低い壁を駆け上って宙返りをするカットが撮れたときには、我ながら「おぉ、これカッコいいな!」と思いましたね。
今回の撮影では、撮影スタッフは僕1人。急な移動も多い撮影なので、スタビライザーにカメラを乗せて、スタンドはURBAN UNIONのメンバーに持ってもらったりして、最小限の荷物で撮影を進めました。高さと迫力を出したかったので、ローアングルで追って、広角で……という撮り方がほとんどですね。音楽も先に決まっていて、それを踏まえるとスピード感が欲しいというのもありました。
撮影にはソニーのPXW-FS7(以下、「FS7」)を使っているんですが、アクション映像なのでハイスピード撮影ができることと、Logで色をいじりたかったので、Logが撮れて10bitで収録ができること、この3つを満たしている機材をずっと探していました。当時は他に選択肢がなかったはず。ソニーのNEX-FS700が10bit対応にならないかな……とずっと思っていたらFS7が発売されたので、すぐ「買おう!」と決めて、発売から半年くらいで手に入れました。
映像って、自分が楽しんでやっている分には、編集もそれほど苦じゃないんです。仕事でやっている編集はなかなか進まないのですが(笑)、今回は1日もあればつなぎ終わりました。「ここにはこういう感じのスピードと動きが欲しい」みたいなイメージもあらかじめあったので、音楽を聴きながら、それを当てはめていくという感じの作業でしたね。
URBAN UNIONのメンバーの中にも、パルクールをやりながらカメラを回す人がいて、小さいアクションカムで写真を撮ったり、簡単なムービーを撮ったりと、自分たちも映像を撮っているんです。ただ、ガッツリ撮るのは今までやったことがなかったそうで。出来上がった作品を観て「画の構図や、撮り方、撮るポイントがやっぱり違うね」と言ってくれました。実は、昨年末から2本目を撮ろうという話も出ていて。今度はドローンを使ったり、地方の山の中や無人島に行ってみようという案もあるので、撮り方をいろいろ工夫していくつもりです。
僕も最近、彼らと一緒にパルクールの練習をしているんですけど、皆が軽々こなすような宙返りなども、なかなかできないですね。「ちゃんと訓練している人たちだな」と感心する一方で、スポーツには自信があったので悔しい部分もあります(笑)。パルクールのプレイヤーがアクションカムを付けて、主観で撮っている映像も見かけるので、自分もパルクールを練習して、もっと面白い映像を撮ってみたいと思っています。まずはパルクールで移動している人に、完全についていくのが目標です。例えば飛び降りる様子を撮るにも、普通はカメラマンが上にいて撮るか、下にいて撮るかじゃないですか。それがもし、カメラも一緒に飛び降りちゃったら……きっと面白いですよね(笑)。
PMAの情報は確かFacebook上で、ビデオSALONの記事が流れてきて知りました。今回のテーマが「感動」ということで、最初は正直テーマと全然関係ない作品かもしれないと思ったんですが……(苦笑)。
YouTubeに上げた動画には海外からのコメントがたくさんついているのですが、「パルクールのパフォーマーはすごいな」というコメントの中に、たまに「彼らのパフォーマンスとカメラワークがすごくマッチしている」とか、「音楽とすごく合っている」といった、映像制作に関する評価を寄せてくれているコメントがある。それもまた、誰かの心を動かした「感動」のひとつなのかもしれないと。それから、審査員の江夏由洋さんが「出さないよりは、絶対出した方がいい」とコメントを寄せていらしたのもあって、わりとすんなり応募しました。
実は、自主制作では「コンペのテーマに合わせて作品を作る」ということはしていなくて。自分が作りたいものを作って、それに合うテーマのコンペに応募するという感じですかね。締切まで時間がないことも多いので。だから、PМAも最初は「何故ノミネートされたのかな?」と不思議だったくらいで(笑)。ストーリーものの応募作が多い中では異色ですよね。逆に、他にない方向性へ振り切っていることで選んでもらえたのではないかと今は思っています。ちなみに、今後挑戦してみたいテーマは「笑い」です。映像においては多分、感動させるより、笑わせる方がずっと難しい。だからこそ挑戦してみたいですね。
僕の中には、「スポーツ」と「ドキュメンタリー」という2つの軸というかラインがある感じなんです。さほど自覚はないのですが、スポーツイベントなども今まで撮ってきた中で「迫力のある映像を撮るのが上手いですね」と言っていただけることが結構多いので、躍動感のある映像が得意なのかもしれないですね。「Art of movement」も、躍動感がキーになっているし。
その両面を活かして、スポーツのドキュメンタリーを撮りたいとずっと思っていますね。元々、ドキュメンタリーをカッコいい映像で撮りたいと思ってドキュメンタリー制作を始めたところもあるので。海外のドキュメンタリーって、画にも力を入れていて、カッコよく撮っている。最近は日本でもそういう作品が増えつつあるけれども、従来の日本のドキュメンタリーは、ディレクターがハンディーカムで撮って、ブレブレの映像だからリアリティがあるという作風の作品が多い。僕が作っている映像は結構かっちり撮るものが多くて、三脚を付けたり、スライダーを付けたりして、わりとしっかり撮っているので、それを活かしてもっと画もカッコいいドキュメンタリーを撮ってみたいです。
逆に、個人的には全編手持ちで撮るような撮影もしてみたいですね。それから、フィルターの勉強をして、フィルターを使った表現のバリエーションを増やしたいです。演出面においては、今回はパフォーマンスを見せるということで、パルクール優先で画を撮って、特にストーリーはなかったのですが、ストーリーのあるショートフィルムも作りたいです。そう、実はフィクションも撮りたいんです。スタッフが多いと自分でも手に負えなくなっていくので、5分くらいのショートショートムービーを、3人くらいのメンバーで撮りたいです。まだ本も全然書けていないんですけど(苦笑)、テーマを探ったりしています。
感動は、「感動させよう」として与えるものじゃない。観る人がひとりでに「感動する」ものだから、与えようと考えなくていいと思っています。作り手が「感動を伝えよう」とか「感動を生み出そう」と狙っても、シラけたものになりかねない。もちろん、作品を作り始めるきっかけとしてテーマはあってもいいと思うんですけど、あくまで出発点ですよね。そこから先は、テーマに縛られない方がいい気がします。
個人的な話になるんですけど……自分の子供を見ていると、当たり前のことをする姿にも、感動することがあるんですよ。親の目線で見ると、子供にとってはごく普通のことでも、そこに感動が生まれる。これは新しい発見だなと。子供は感動させようとはしていないわけですし。だから、自分の作りたい作品をひたむきに作って、観る人もそれを感じるままに楽しんでもらえれば、それがきっと感動につながるんじゃないかと思っています。
福井 崇志
ビデオグラファー
日本映画学校映像科卒業。
構成から撮影・編集まで一貫して担当するフリーランスのビデオグラファー。
現在は企業VPや地方PR映像を中心に映像制作活動中。
ドキュメンタリースタイルの撮影手法と映画のような映像表現で思いの伝わる映像作りを目指す。
学生時代運動部だったことから躍動感のある映像を撮ることも好き。
徳島県出身。東京・茨城を拠点に全国で活動中。
おばあちゃんの話/近藤 正之
リアルな表情とそこから感じられる感情がとても良かったです。短い尺の中でもおばあちゃんのかわいらしいキャラクターを感じられる点が素晴らしかったです。
ストーリーの説明に終始してしまい人物のキャラクターまで描くことが難しい中、1分強という尺で表現できているのは本当にすごいと感じました。
押し付けがましい演出がなく、全てを説明しない、見る人に想像させる余白のある映像が私の好みに合っていました。
音楽で強引に感動させようとすると逆にしらけてしまうものも多いなか、BGMなどもさりげないもので良かったです。私もこの作品のような温かい作品を作りたいです。