作品名:made in earth
高校卒業後にテレビ制作の道を志して専門学校へ進み、在学中からインターンシップでADの仕事をしていました。ただ海外志向だったので、就職する前に長期で海外へ行ってみたくて、卒業後1年はワーキングホリデーでオーストラリアに滞在したんです。それから、日本で経験を積んで、海外でテレビの仕事に就きたいと考え、東京で就職して5年働きました。その後ニュージーランドへ行き、自分の会社を立ち上げて映像制作系の仕事を始めました。
最初のオーストラリア滞在中、現地のテレビ放送の編成に違和感を覚えました。おそらく英語圏の国がそうなのかもしれませんが、英語圏の他国から番組を買い、当時は自国で番組制作をすることが少なく、編成もおかしかったように思います。日本では日本だけの日本語が言語なので、他国の番組を放送することがあまりありません。それを見て「日本でテレビ制作の経験を積み、海外でその経験を生かして、テレビの仕事をしたい」と考えるようになりました。実際のところ、再渡航後も就職先はなかなか見つからなかったのですが……オーストラリアの隣のニュージーランドでは、当時は比較的簡単に会社が作れたんですよ。ワーキングホリデー中でもインターネット上で申請などを行い、日本円で数千円分のお金を支払えば、当時は自分の会社、法人が作れました。そこでニュージーランドに自分の会社を立ち上げ、並行して番組を作っている人とも知り合って、ボランティアとして番組制作に携わらせてもらえるにようになりました。
ニュージーランドには約3年滞在したのですが、その間に東日本大地震がありました。当時ニュージーランドにいた僕は、現地の日本人を集めて募金活動をしたのですが、参加してくれたうちの一人が、世界一周の旅の途中でニュージーランドに立ち寄っていた方でした。彼の話を聞き、写真を見せてもらって「すごいな」と感激しまして。それまで世界一周といえば街中に貼ってあるポスターのイメージで、自分が行けるものだとは思っていなかったのですが、実際に周っている最中の人と交流して、「死ぬまでに一度経験したい」と思うようになりました。
帰国後4年間は世界一周の資金を貯めるために、在宅でブライダルビデオの編集の仕事をしました。並行して、今後映像でやっていくには、撮影や編集だけでなく、CGも自分で手掛けられる方がいいと考え、2年間CGの専門学校へ行って勉強したんです。正直今は、携帯で撮影して、簡単なアプリで編集して、動画サイトにアップロードするなら誰でもできる時代なので、映像制作のプロとの差は何だろうと考えた結果でしたね。
昨年、世界一周の旅から帰ってきてからは、フリーランスの映像作家として活動しています。今は主に世界中で撮影した映像を編集して、地方局で放送される15分番組を作っていますね。ちなみに今年は、日本一周しながら各地の映像を4Kで記録していく旅を予定しています。
世界一周では、旅先の映像を4Kで記録しようと決めていました。素材はポータブルのハードディスクに入れていって、一杯になったら日本へ送り、現地でまた新しいハードディスクを買っていきました。最終的には写真と映像合わせて8TB分になりましたね。正直、まだ整理が追いついてないです。PMAの募集を知ったのも締切の2日か3日前だったのですが、せっかく撮りためた映像や写真を使わないのはもったいないと思い、提出を決めました。「made in earth」は、8TBのデータの中からすぐアクセスできた映像をつないで作っています。短編映画の作品募集はよくありますけど、PMAのようにテーマを決めて募集するものは珍しいし、自分の持っている素材も、テーマの「感動」に合うと感じたので、急遽作ることにしたんです。
「感動」というテーマを踏まえるなら、文字やナレーションを入れてもっと感情移入できる作り方にしたほうが良かったのかなというのは、受賞作品を観る中で感じました。ストーリーがあれば、見やすくなりますが、映像だけ、風景だけで伝えるのは難しいですね。カットでつなぐと、ストーリーが感じられない作品になりがちなので。風景って風景が好きな人は観てくれますけれど、そうでないとそこの場所に思い入れがあるか、行きたいか、行ったことがあるか、そういう人しか見てくれないことも多い。正直、今回そこまで凝った編集や、キャッチーな仕掛けもないですから、伝えるのは難しいとすごく感じています。今は、YouTubeなどに世界中の映像が溢れているので、探せばいろいろな風景が観られるはず。ただ興味を持って探してもらうことが大事だと思うんです。今回の僕の作品や他の応募作品をきっかけに、風景や自然の映像に興味がなかった人にもこういう映像を観てもらって、何か感じてもらうことができれば嬉しいですね。
自分の想いの中でも、カメラや映像は記録するところから始まっているので、次回またPMAの実施があるなら、風景や旅の「記録を残す」ような部門が1つあるとうれしいです。風景や旅の映像はなかなか評価されにくいし、クリエイター向きではないかもしれないけれど、一般からも幅広く募るのであればそういうテーマがあってもいいですよね。誰かが観た風景を共有させてもらえるのって、本来であれば行った人しか観られないものなので、僕にとってもすごくありがたいことです。
生きていれば人それぞれやりたいことがたくさん出てくると思いますけど、その中でも強くやりたいと感じたことなら、僕は諦めたくないですね。世界一周もそうですが、世の中には「やりたいなぁ……」で終わる人が本当に多いと思うんです。僕も世界一周の旅に出る前は、他人が旅する様子を見て「羨ましいな」と思っていました。一般的な仕事をしていたら、まずできないことじゃないですか。ところが、行ってみて実感したのですが、世界一周に挑戦できる環境にある人は、世界的に見てすごく恵まれている人なんですよ。僕が例えば中米で生まれていたら、海外へ行こうと思っても、日本と違ってビザ申請がパスされていない可能性が高い。お金に関しても、日本で30万円貯めるのと、中米の人が日本円で30万円分のお金を貯めるのとでは、かかる期間や労力も全然違いますよね。挑戦できる環境にあっても、本当に実行する人はごくわずか。さらに世界一周しながら映像をきちんと撮っている人となるともっと少ない。撮っては自国に帰って、それを繰り返している人の方が多いんです。正直自分も、世界一周の旅はとても大変でした。知らない国で、三脚立ててカメラを回すのって、治安や防犯の面でけっこう緊張が走るんですよ。
特にきつかったのは、エベレスト登山のベースキャンプまで行ったときですね。トレッキングルートを約2週間かけて歩いたのですが、カメラと三脚を持って、朝から陽が沈むまで、撮影しながら移動するんです。帰りに空港で荷物の重量を測ったら、25キロでした。行きは食料も入っていたので、おそらく30キロくらいの荷物を持って自分は歩いていたんだな、と。毎日、日が暮れる頃になると肩が痛くて、歩くのがしんどくて。しかも進めば進むほど高度が高くなっていくので辛さが増すんです。山登りはさらにきついですね。他でも三脚やカメラを持って6,090メートルの山を登ったときも、最終登頂のアタックのときに高山病になって。それでもなんとか撮影だけはと思って、一眼レフだけは手放さずに登りました。
世界一周の旅で最も印象的だったのは、南極です。世界中にはたくさんの絶景がありましたが、南極大陸は住んでいる人がいない、本当に手つかずの場所。どこの国にも属してない地球上で唯一の場所で、その景色を自分の目で見た時の破壊力はすごかったです。偉大さ、壮大さ、破壊力。まだまだ映像では伝えきれないものがありますね。今回の作品に登場するクジラも、ホエールウォッチングした時に自分たちのボートの目の前を、バシャッと飛沫をあげながら泳いでいって、本当に圧巻でした。
世界一周も、これから挑戦する日本一周もそうですが、「今の姿を記録する」のはすごく重要なことだと思っています。日本でも東日本大震災があったり、海外でも過激派が歴史的な建物を破壊したり、各地で戦争が起こっていて「失われる姿」が増えている。今までそこにあったはずが、街が1日にしてなくなるということも起こりうる。時代的にも21世紀はおそらく大変な転換期になるのではないかと思います。そこで、今の地球の姿を純粋に残したいという想いがあるんです。映像を撮るからには「観てもらいたい」気持ちもありますが、それにも増して「記録したい」気持ちが根底にありますね。今はなにげない風景で、それほど価値がないかもしれないけれど、50年後、100年後の将来を考えると、もしかしたらその風景はもう失われていて、残っている記録が誰かにとって価値のあるものになっているかもしれない。
東日本大震災の2か月後に帰国し、震災の半年後に1か月間のボランティアにいって、被災者の体験談を聞いたり、自分でも現実にさまざまな風景が失われた現場を目にしました。それで、風景を記録として残す、今を残すっていうのは意味があるのだな、と強く感じましたね。もし震災前の映像を記録していたとしたら、被災者の方は、震災が起きる前の映像を……今は無理でも、気持ちの整理がついた時に、いつか観たくなるかもしれない。「昔はこんな街だった」って、自分が観て懐かしみたかったり、子どもに見せてあげたかったり。
世界一周の旅の中でもそういうことがありました。オーストリアのヴェルヘンという街へ、氷の洞窟を撮りに行ったのですが、行ってみたら洞窟内は撮影禁止で。このまま帰るのももったいないと思って、街の風景を撮影しました。それをYouTubeにアップしたとき、映像を観た人に「この街を撮影してくれてありがとう」というコメントをもらったんです。ヴェルヘンの街自体は観光地ではないので、YouTubeに映像をアップしている人がほとんどいないんです。でも、コメントしてくれた人のように、誰かにとっては故郷だったり、思い出の場所だったりするんですよね。この経験を経て、有名な場所じゃなくてもやっぱり記録していくことが重要だった、映像に残せて良かったという想いが強まりましたね。故郷から離れていると、故郷の映像を観られるだけで嬉しいだろうし。今はそれほど意味がないことでも、将来誰かにとって意味のあることになる可能性を信じて、続けていきたいです。
これから日本一周する中でもいろいろ撮影して周りたいですね。屋久島や、他の離島も行ってみたいですし、山の中のいわゆる秘境に住んでいる人が、どんな生活をしているのかにも興味があります。自然と暮らす人々の風景を撮れたらなと。映像は、基本的にはスタビライザーを使って撮る予定です。しっかり撮るときだけ三脚を立てて、大自然の中で、空撮が許される場所ではドローンを使って撮りたいですね。
世界を周っていて気づいたのは、日本の文化が好きな外国人が、案外多いこと。実際日本に観光に来る外国人も増えているので、僕が日本中撮影して周ったものを、日本人にも、日本に興味がある外国人の方にも見てほしいですね。ちなみに日本一周の旅が終わったら、定期的に海外へ行って撮るのは続けたいと思っているんですが、記録するのを一番の目的とする活動は一旦終えようかと考えています。
映像作品でいえば、映像を観た人の心になにか響く、それが感動になると思います。思い入れなのか、感情移入なのか、難しいですけれど。南極大陸のことを思い返すと、人が何か作りこまなくても、そのままでも心が動くのが感動なのかな。実際にいろいろ見てきた中でも、自分が感動したのは人工物より大自然が多かったんです。人それぞれだとは思いますが、自分は大自然を前に「地球ってすごいな」と思いました。都会にいると、人間が地球を操っているかのように思ってしまいがちですが、自分たちは地球に生かされているんだなと感じましたね。
溝井 誠
国内外でのテレビ番組制作経験を生かし、世界中の今を4Kビデオカメラで記録する個人プロジェクトを現在活動中。昨年、地球上の全大陸(41か国+南極+北極圏/グリーンランド)を一人で500日間かけての撮影旅を終える。2017年7月より、日本一周撮影旅をスタート予定。
LIVE IN THE MOMENT/遠藤マサ
自分には撮れない映像ということもあって、印象に残りました。あの場に行くのもなかなか難しいですし。映像もまた、生命力を感じる映像ですよね。