作品名:See The World
中学生のときから映画が好きで、ずっと映画を観ながら漠然と「映像業界に入りたい」と思っていたんです。そこで、18歳で大阪にある映像の学校に進んで2年間学び、卒業後はまず大阪の番組制作会社に入って、1年半くらいADとして働きました。ただ、テレビ番組制作は僕が求めている映像制作と少し違って、どちらかというと企画寄りなんですね。極端な話、面白い企画があれば、撮り方にはそこまでこだわらない。そこで、「映像」に凝るならCMや映画がいい、東京へ行こうと考えてその会社を辞めました。
辞めてすぐに東京へ行ってもよかったのですが、当時、沢木耕太郎さんの『深夜特急』を読んで、ものすごく感化されて。このまま東京へ行くのはもったいないと思い、「世界一周の旅をしてから東京へ行こう。」と決めました。それから1年間働いてお金を貯め、2年間かけて世界一周の旅に出たんです。「See The World」はそのときに撮った素材で構成されています。もともと撮影しながら旅をするといったプランではなかったのですが、せっかく映像の経験があるし、撮りながらの旅ができたら、より面白いしキャリアにもプラスになるだろうと考え、映像を撮り始めました。香港から始まり東南アジアに南下して、インド、ヨーロッパ、アフリカ、南米、北米という、地図的にも綺麗に丸く一周するようなコースの旅でしたね。ただ基本的には貧乏旅だったので、序盤は、やりたいことや食べたい物を諦めることが多かったのですが、途中から考え方を変えて「今しかできない経験はお金がかかったとしてもやるべき。」と思い、プランを変えました。その結果、旅の中盤で資金が底を突きることが分かったので、半年間はワーキングホリデー制度で働きながらオーストラリアに滞在したこともありました。
帰国後は2年間ずっと撮り溜めた膨大な素材があるので、まずは記念にと思い1本にまとめるか!と思い立って。その後、PMAを知って、テーマもこの素材と合っていたので応募することにしました。今は、当初の希望通りCMの制作会社に入社し、制作部として働いています。まもなく1年になりますね。
世界一周するにあたって、すごく大まかな「この国へ行って、その次はこの国へ行って」くらいの旅程は最初に決めていましたが、その道中どこへ行って何をしてというのは、事前には決めていませんでした。
最初からすべて決めたとしても、全部計画通りに事が運ぶことって無いと思うんです。だったら、何か起こったときに対応した方が楽しいやと。行きたい所があれば行けばいいし、やりたいことができたらやればいいし。旅と旅行の違いはそこだと、個人的に思っています。
専門学校時代に使っていた古いミニDVカメラとスマートフォンしか持っていなかったので、機材といえばその2つです。一眼レフを買う余裕もなかったので。小さい三脚も持って行ったのですが、あくまで、旅をメインに考えていたし、三脚を構えて撮るような撮影スタイルでもなかったので、重い三脚がだんだん邪魔になってきて、途中で人にあげちゃいました。素材は、旅をしていてふとした瞬間に、「これはいい」と思ったところを撮り溜めていった感じです。基本的には「これを撮る」とか「こう撮る」というルールは自分の中になかったので、ほとんど直感で撮りました。
実は最初、それぞれの国で旅行記のような動画を作ろうと思ってたんです。ただ、途中から何かが違うなと感じて。ひとまず10本くらいは作ってみましたが、旅行記みたいに、すべてを撮影していると「旅」自体に制限がかかるし、その割に面白いと思えなかったので、「最終的にまとめた動画を作ろう」という姿勢に変えましたね。
素材の量だけでいうと、かなりの量はありました。いざ観てみるといろいろなタイプの素材があり、それこそ世界中の絶景や、いろいろな食事、おいしそうな物やゲテモノまで。市場とか公園とか地元の人の生活している様子なんかも撮ってました。
「See The World」は、「感動」というテーマもあったので、撮った素材すべてが使えるといった物ではなかったですね。意外だったのが、旅をしている間は、風景を多く撮っていると思っていたんですが、帰国して見返してみると、意外にも人を撮っている素材の割合が多かったこと。自分では、人を撮るのはそんなに好きではないと思っているんですが、たぶん無意識に人を撮るのが好きなのかな、と意外な一面にも気付けました。
これまで自主制作の作品はそんなに撮っていなくて、「See The World」もひさしぶりに作ったんですよ。その前となると、学生時代の短編映画とか……そうだ、旅の途中で違う動画も撮りましたね。旅先で、現地の人の髪をカットしながら旅をしている日本人の美容師と知り合って、彼が目標にしていた「1,000人のカット」を達成した、その1日の様子を撮ってまとめたんです。
今回は、元から絵コンテとか企画ありきで撮っているわけではなかったので、直感で撮り溜めた素材を後から編集して、その時点で作品の内容を決めていくスタイルになりました。まずは楽曲選定から始めたのですが、SoundCloudで音源を探していたときに偶然見つけたのが、イギリスの音楽家Tom Rosenthalの「There is a dark place」という曲でして。独特な音楽と強烈なメッセージ性がいいなと思ったので、本人に「こういう映像を作っているので、使わせてもらえませんか?」とメールしたところ、ありがたいことに承諾していただけたんです。
「世界にはこんな暗いところがあるし、でも僕は暗いところへ行きたくないんだ」というようなメッセージを持った曲で、まさに僕が世界一周して感じたことを歌っていたんですね。僕が旅に出て最も良かったと思うのは、視野がものすごく広がったこと、そして自分の常識が世界の常識ではないと、身を持って痛感できたことです。世界には本当に様々な場所・人・文化が存在しています。良い暮らしをしている人、劣悪な環境で暮らしている人。ただただ綺麗な世界遺産、負の歴史を背負っている“負の遺産”。 もちろん、学生の頃に勉強で習っていたことも多かったので僕の中の“常識”には一応入ってはいたのですが、実際、目の前で見て、感じて、考えたら今までの教科書とかインターネットだけで作っていた自分の“常識”をぶち壊されましたね。知ったからこそ、そういう“暗いところ”には行かない世界にしないといけないと。
この曲をベースにして映像を作ろうと考えてからは、音楽を聴き込み、全体の構成を決めて、思い浮かべた映像に近いものを、旅の間に撮った映像素材からあてはめていきました。前半と後半で音楽のリズムがガラッと変わっていくので、それに応じて映像もリズムよく見られるように編集しました。
音楽が中心の作品なので、気持ち良いリズム感と映像的な楽しさやメッセージ性を追求して作りました。テーマの「感動」に関しては、音楽の持っているメッセージをより強調できるようにしています。あの音楽が持っているものって、表面的な感情じゃなくて、もっと深いところにある感情だと思うんです。世界にはすごく暗いところもあるし、もちろん明るいところもある。「ただ僕は暗いところへは行きたくないんだ」というのが深いメッセージであって。このメッセージを感じさせることはなかなか難しいとは思うけど、そこをあえて表現しようと考えて音楽も映像も選びました。
旅の間ってほぼ起きてるか、食べてるか、歩いてるかくらいしかないので、正直時間はめちゃくちゃあります。必然的にいろいろな本もたくさん読むようになりました。僕はひとりで考えるのも好きなので、毎日いろんなことを考えてました。それこそ、普通に日本で社会人として働いていたら確保できないような時間を、2年間毎日過ごしていたんです。実はこれが旅の醍醐味の1つだと思っています。「See The World」というと直訳すると、「世界を見よ」と言うような感じですが、この作品を観た人が「行って、実物を見てみようかな」と少しでも思ってもらえたら、あの動画を作った意味があるのかな。
僕もまた旅に出たいですね。次はしっかりした機材を持って行きたい。そんなに機材に詳しいわけではないのですが、今は一眼レフが欲しいです。ハンディカメラだといろいろ制限が出てしまうので、単純に欲しいと思った映像をよりイメージ通りに撮影できるようになりたいんです。次に旅をするときは、きっと「これを撮りたいからここへ行く」というスタイルの旅になるので、場所が決まればどういう画が欲しいかも決まってくるし、三脚が必要なこともあるかもしれない。そういう必要な機材はちゃんと持って行きたいですね。
2年間使って世界一周するのは、自分の中でも一大イベントだったので、それをまとめた作品がある程度形になったこと、PMAでノミネートされることで多くの人の目に触れる機会を得たことは、応募してよかったと感じています。今後も、仕事上でもノミネートされた実績が次の企画につながったり、このインタビューをきっかけに声をかけてもらえたりしたら、と期待している部分はあります。
授賞式も楽しかったですね。ああいう場でないと、クリエイター同士が会うことってあまりないと思いますし。特に作品を観た後に、作り手と撮り方や構成の意図といったことを話せるのは勉強になりました。もちろんそこで、今後につながる可能性もあるわけで。溝井誠さんの「made in earth」も、世界一周の旅を題材にした作品ですよね。授賞式で溝井さんと話してみたら、実は同じくらいの時期に旅をしていて。ところが、僕らの2作品って結構作風が違うんですよ。「made in earth」はいい意味で被写体との距離感があって、映像もすごく綺麗で、じっくりとそれを観る作品ですよね。僕の「See The World」は、被写体との距離感が近いんです。画も見てほしいけれど、その奥にある日常や音楽に乗せたメッセージを感じてほしい作品だと思っていて。そういう2作品が同じアワードでノミネートされたと考えると面白いですね。きっと、溝井さんと僕で見えている“世界”が違うんだと思います。
またアワードが開催されるのであれば、具体的なテーマよりも、ふわっとした大きいテーマの方が、作っていても面白いと思います。「感動」だって、人の数だけあるじゃないですか。極端に言うと、同じことでも感動する人と感動しない人がいる。個人的な話をすると、僕は怖い映画が大好きなので、「恐怖」とか、「怒り」がテーマだと嬉しいです。ただ、逆に「喜び」がテーマでもいいと思います。そういう幅広いテーマだと、クリエイターの個性も出るし、面白そうですよね。
ちなみに、ホラー映画の中でも一番は『悪魔のいけにえ』。あの映画は、言葉で説明できないけど「なんか怖い!これはヤバい!」と本能で感じさせてしまう “何か” がフィルムに宿っていると思うんです。それはもう“神の領域的”なもので、たくさんの要素が狂いも無く歯車のように絶妙に噛み合っているからこそだと思うんですが、それが自分の作品でも表現できたらヤバいですね。今はまだ早いけれど、死ぬまでに長編ホラー映画を撮りたいという想いは、中学生の頃からずっとあります。
今はCM制作会社の制作職として仕事をしています。CM・WEB・MVなどの映像制作の企画から撮影、編集して納品するまでのすべての作業を担っています。この仕事の良いところは、例えば一流の映像監督の一番近くで、どう企画して、どう撮影して、どう編集しているかを見られることで、日々刺激的でとても勉強になります。
仕事をしながら自主制作する人って、本当に根っからのクリエイターだと思うんです。別に、目の前にある仕事をするだけで生きていけるじゃないですか。でも苦労してでも作りたい映像がある、したい表現がある、主張したいことがある。仕事では満たせないそういう部分を苦悩しながら作り出す原動力って本当に尊敬します。それに芸術の世界って“実績”が物をいう面もあると思っていて、例えば「こういう作品が作れます」と口だけで言われても、信用できないじゃないですか。「これまでにこんな作品を作ってきました」と提示するためにも、今はとにかく映像作品を作り続けないと、と感じています。
感動というのは感覚的で、言葉にできない感情かなと思っています。なんだか知らないけど泣けてくるとか、ジーンとするとかっていう言葉にできない感覚そのもの。それに、感動って人間にしかないものだと思うんです。ここまで複雑な感情を持っているのはきっと人間だけだと思っています。難しくて複雑な“感動”というものを、自分なりの表現で映像に落として、それを見た人が感動してくれたらもうなにも言うことはないですね。
安藤 亮
太陽企画株式会社
1991年 鳥取県生まれ。1人旅と音楽が趣味で、これまでに50ヶ国を旅する。国内外の音楽フェスにもたまに出没。現在はCM制作会社に入社しCMを中心に、WEBやPVなど様々な映像制作を担当。実は、最近いいカメラを買ったので、撮影させてくれる人・物を探し中。
TURN CICADA/大上類人
すごく綺麗な映像だと思いました。CGでもないし、おそらく実写なんですが、こんなに寄りでずっと、どうやって撮っているんだろう?と。自分にはない技術なので、単純にすごいと思いますし、どうしているのか聞いてみたいですね。