19歳で初めて撮った映画が
今回の作品のきっかけに

さかのぼること約10年前、大学に入ってすぐに、高校時代の友人と自主制作映画を作ったんです。僕だけが地元の大阪を離れて東京の日芸(日本大学芸術学部)に進学しました。何か作りたいけれど、まだ役者の知り合いもいない頃だったので、夏休みを利用して、気心が知れている高校時代の仲間を集めて撮りました。みんなド素人ですし、今思えばクオリティも低い、恥ずかしい作品でしたね。でも、夏休みの帰省中に撮って、東京で編集して、撮り漏れがあったらまた大阪へ行って……といった経験をして、人物を撮るのがすごく大変だとわかった。多分大学時代に人を撮ったのは、後にも先にもこの1回でしたね。だいたいパソコン1台で完結できる作品、CGとかモーショングラフィックスとか、そういうものばかり作っていました。

最初に就職したのは広告代理店の営業職。企画書と見積りを持参して商談するような仕事で、映像制作には全然関係ありませんでした。広告の企画をやりたいと考えての選択だったのですが、5年働いてどうしても映像への情熱が捨てきれず……約3年前にそれまでのキャリアを全部捨てて、映像制作会社に転職し、ゼロから基礎を叩き込まれて今にいたります。

今回の作品、「19_29」を作るきっかけになったのが、高校時代に一緒に映画を撮った友人の結婚式。撮影当時は19歳、結婚式で集まった時は29歳で、「ちょうど10年の節目だし何か撮ろうか」ということになったんです。出演している仲間は、普通に就職して、結婚もして、家を買った人もいて。多分みんな幸せなはずなんですよね。けれども実は、どことなく「こんなはずではなかった」感じが見え隠れしていて。僕自身も、19歳の時になりたかった自分とは、似ているんですけど、ちょっと違う。その「不満というほどではないけれども、何かが違う」という感じが、今回この作品ですごく問いたかったところなんです。そこで、今そこにある、でも何だかわからないモヤモヤしたものを吐き出してほしくて、ドキュメンタリー形式で作りました。

 

思ったよりしんどいけれど、
がんばる姿に心動かされて

もともと「19_29」は30分~1時間程度の長編作品で考えていて、素材は去年の夏に撮っていました。その後、撮影に参加した仲間にPMAのことを教えてもらい、「2分ならすぐ挑戦できるな」と考えて応募したんです。普段の業務で扱っている映像がたいてい30秒から2~3分の短尺なので、パッと組み立てやすかったのもありますね。一方で実は、長編のほうの編集が全然進んでいないんですよ……仕事をしながらだし、あと半年くらいはかかるんじゃないかな。

撮影当日、メンバーへのディレクションは「自分の思っていることをちゃんと自由に言っていいよ」ということだけにしました。実際カメラを回し始めると、出てきましたね。緊張しないようにお酒もたくさん用意したので、ベロベロに酔っぱらったところで、会社の不満であったり、昔の夢はこうだったけど今はどうだとか、「こんなはずじゃなかった」みたいな言葉が……でもそこまで不幸かっていえばそうでもないし、じゃあ幸せ!というわけでもないし。多分、真綿で首を絞められているような日々のあれこれ。

僕自身もそうなんです。どちらかというと僕は「夢がかなった人間」のはずなんですよ。ずっと憧れていた映像の仕事に就いて、いろいろな案件に関わって、業務として一番好きな作業ができる。だけど、どこかモヤモヤした感じがすごくあるんです。望んだレベルにまだ到達していないことや、代理店時代より収入が減って、それでも家族を養っていかなきゃいけない厳しい状況の中で、やっぱり何か思うところがあるんですよね。毎日ずっと「後がない、崖っぷちだ」と思っていましたし。SNSを見れば、知り合いの「賞を獲りました」とか「こんなすごい作品撮りました」という情報が流れてくる。ふと自分の映像を見ると、普段やっている仕事も、過去の作品も全然センスがないな、と焦って吐きそうな気持ちになる。そういうモヤモヤも、多分「不幸じゃないけど、幸せでもない」という感覚に繋がっていると思うんですよね。そんな「思ったよりしんどいな」という毎日が続いていて、「でも、僕だけじゃないかも」と思ってみんなを集めて撮ってみたら、やっぱり僕だけじゃなかった。

中でも、演者の中で一番の出世頭が、ベロンベロンに酔っぱらいながらいろいろなことを喋っていたのが印象的でした。大企業に勤めて、給料もよくて、結婚してマンションも買って。ただ、とにかく仕事がつまらない、と言う。それで僕が「なんで仕事つまらんの?」って聞いたら……「つまらんことに理由があるか!つまらんもんはつまらん!」って一刀両断したんです。その瞬間の彼の顔がすごく良くて。コイツ、本当はやりたいことがあったかも知れないのに、どうにか家族を養おうとしてがんばっているんだなと、ちょっと心がほんわかしたというか。何かを守るためにがんばっている姿は10年前とは違っていて、それを映像で記録できたのがすごく良かったです。みんなそれぞれ悩みを抱えて生きている。当たり前なんですけど、改めて聞くと、きちんと記録しておいて良かった話がたくさんあって。それは、同世代に向けたメッセージとして残しておきたいですね。

同世代のモヤモヤしている人たちに
伝わる言葉を

今回、カメラは丸24時間、僕が回しています。10年前と同じメンバーでやるというテーマもあったし、気心知れた仲じゃないと言えないこともあるだろうから、部外者は連れて行きたくなかったんですよ。機材選びやカメラ周りの環境も整えたつもりでしたが、プロのカメラマンではないので手ブレが酷かったり、光量が足りていなかったりして。撮っている間もですが、撮った後からの修正は本当に大変でしたね。現場では手持ちしたけれど、スタビライザーを使えば良かったと後から反省しました。編集も試行錯誤しましたが、どうしても上手くいかなかったところは「一コマ一コマ人物を切り抜いて背景と合成する」といったこともしています。そこは、自分がプロとしてやっている工程でもあるので。

「暗いキャンプ場のような場所で、淡々とみんなに話してもらう」というのはあらかじめ決めていました。ただ、照明を用意するとみんな気構えてしまうし、カメラ1つで気ままに撮るスタイルを貫きたかった。そこで使えるカメラとなると、超高感度のα7Sα7S Ⅱしかないんですが、予算を考えると手ブレ補正のないα7Sしか用意できなくて。加えて、途中でカメラが発熱するのを考慮し、外部レコーダーとしてATOMOS SHOGUNも付け、音声はZOOM H4nで録りました。気持ち的にも、スマホでパーッと撮るぐらいの感じで撮りたかったので、場所を取らずに、かつ全体が撮れるセッティングを心がけました。

編集にかけたのが約3ヶ月。何となく頭の中に構成が組み上がっていたので、24時間分の膨大な映像の中から、全部の発言をテキストに起こして、台詞同士で「こうやったら話繋がるな」とか「ここの言葉だけは残したい」というのを抜き出して、まず音声を組み合わせてから映像を乗せていきました。なんせ撮った量がすごく多いので、この中からいかに同世代のモヤモヤしている人達に伝わる台詞を使うかで結構気をもみました。テキストを書き起こすだけで相当かかりましたからね。じゃあ、表情より台詞優先かというとそうでもなく。みんな、いいことを言っている時はだいたい、すごくいい表情をしていたので、音声に映像がついてきた感じですね。どの素材を使うか本人に相談すると、絶対「恥ずかしい」と言いだすだろうと思ったので、全部僕だけで編集して、みんなを呼んで試写することもなく、PMAに応募してしまいました。

「これが世に出たらおもしろい」という映像を撮りたい

ノミネートされてからの反響で嬉しかったのは、尊敬している方からFacebook上で「おめでとう」というメッセージがきたことですね。代理店時代の部長で、僕に親身になって指導してくれた方なんです。代理店を辞めて映像制作を一からやると決めた時も、最後の最後まで話を聞いてくれた。そんな人が「やっと芽が出てきたか」と認めてくれたように思えて。

僕自身は、映像制作では「コンポジット」、例えばAdobe After Effectsを使って、映像に光を加えたり、セピア色にしてみたり、そういう作業がすごく好きで。ちょっと変態っぽいんですが、僕がAfter Effects上でキーフレームを打った箇所は、納品後も変わることはありません。僕の残した痕跡が、全世界に向かって配信されていく感覚がたまらない。「僕が作ったから今ここがこうなって文字が出ているんだぞ」って。実は、「19_29」のプロジェクターの光も全部僕が作っているんです。普通は、あんな風に撮れないですからね。ひとつの到達点として、僕の技術を全部詰め込んだ感はあります。

今後は、CMで代表作を作りたいですし、音楽PV を撮ってみたいと思っています。ヒップホップやクラブ系が好きなので、そちらの界隈からお声がかかったらすごく嬉しいです。クラブ周りの方々、タダで撮るんでなんか仕事下さい(笑)。挑戦してみたいのは「コイツ、なんかヘンだな」と思われるような、ちょっとズレた映像ですね。会社でCMの企画を書くときも、「王道の企画」、「クライアントが求める企画」に加えて、「これが世に出たらおもしろいな、なんかヘンだな」という企画を必ず挟むんです。「これが世に出たら~」という企画はだいたい通らないので、それをどうにか実現させたいです。

ちなみに、一度実現しかけたのが、首から上が巨大な「親指」になっているお侍さんが斬られてはまた立ち上がり……というCM企画。時代劇のセットの中でズバズバ斬られて、うわぁ~って倒れる侍の頭が「親指」。これ、絆創膏のCMだったんですけどね。結構いいところまでいったけれど、添付したビジュアルがあまりにも広告向きじゃなくて……お蔵入りになりました。けど、いつかは、そういうヘンな作品作りを実現させたいです。

ノミネートがモヤモヤを吹き飛ばすきっかけに

映像機器の最先端を行くソニーがアワードを主催することは、すごく意味があると思っています。それだけ注目度も高くて、初回で250作品も集まるアワードって聞いたことないですよ。しかも蓋を開けたらクオリティの高い作品が集まっていたので、これが今後も続かないと、逆に映像の表現が高まっていかないのかなと感じます。

僕自身にも、いろいろな刺激がありました。実は授賞式のアフターパーティで、審査員の江夏由洋さんに「人を撮るのにハマってしまったので、カメラの購入を本気で検討しているのですが、何がいいですか」と相談したんです。すると江夏さんは「カッコいい映像を撮るのはカメラじゃないよ。照明なんだよ」とおっしゃって、それで目からウロコが落ちたんです。「光の作り方なんだ」と。「もちろんいいカメラはいい画を撮れるけども、そんなものは日進月歩で進化していく。自分の感性に合ったいい画を撮るには、照明のことを考えなさい」と言われて、憑き物が取れたというか。

ノミネートされたことでも「意外と自分はできる」し、逆に「やってみないと何にもわからない」な、と実感しました。時間がないのも、お金がないのも言い訳だと思うんですよね。僕も忙しいほうだと思うけれど、その中で作り上げられたし、借金してでも完成させたので。そこは、代理店時代に培われた“突破力”があったからですかね。当時は、課題を突破しないとめちゃくちゃ怒られました(笑)。作っても作ってもセンスが追い付かないし、他の作品がすごく良く見える、そんな中でも結果を求められ……モヤモヤした日々を送る中でのノミネートだったので、単純に嬉しいというよりは、安心感のほうが強かったです。「自分は間違ってなかった」と、ちょっとだけ自信が持てたというか、この方向性でやっていこうというフックになった。自分のスキルを確かめて、そういうモヤモヤを吹き飛ばすためにも、アワードに応募する意味はあるかもしれません。

10年後、「29_39」もあるんじゃないですかね、多分。おそらく10年後もみんな今と同じ会社にいて、同じ仕事をしている……変わるって相当な労力がいるし、自分が目指すべき方向を決めていないと変われないなと感じているので、ちょっと冷めた目で見るとそんな気はしています。僕は……自分の名前で食っていけていたらいいですね。ちゃんと代表作があって、「佐々田がいるから何か頼む」という状況が生まれているような。

佐々田天

佐々田 天

株式会社アマナデジタルイメージング

1986年生まれ。大阪府出身。日本大学芸術学部放送学科卒業。広告代理店で営業職として5年勤務した後、映像制作会社に転職。広告映像を中心に、年間100本近い映像制作に携わる。プランナーとしても活動し、過去にAC JAPAN、宣伝会議主催の賞など受賞暦多数。

FINAL SELECTION

 

May/大久保嘉之

画づくりがすごくきれいな作品でした。きちんと色の管理をしていらっしゃるし、おそらく自分には作れない映像だと感じ、とても印象に残っています。

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