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3C's

Creative
Craftsmanship
Challenging
13

Shota Fujii

Director of photography
センスを言語化する。
ストーリーに重きを置いた
独自の映像スタイル

Shota Fujii

1990年 三重県生まれ。大阪市立大学商学部を卒業後、YouTubeで映像を学ぶ。16歳から学んできた英語と海外出身のフィルムメーカーから学んだ知識や経験を生かし、Gurus Film Production(グルズ・フィルム・プロダクション)を設立、多様なニーズに応えられる高品質な映像制作サービスを提供している。直近の活動では、医療従事者や若年認知症に関するPR映像など、社会性の高い作品を数多く手掛けている。

大阪市立大学に入学後、統計学や数学に興味を持った藤井氏。一度は研究者の道も志ざし、東京大学へ合格するも、映像の道を選ぶことに。YouTubeで映像を学び、ロジカルなアプローチで映像制作する藤井氏の作品は、観る者にまるでその場にいるかのような錯覚を与えてしまうほどにリアルです。今回は、そんな独自の方法で映像制作を続ける藤井氏の3C(Creative Craftsmanship Challenging)を聞きました。

chapter 01
数学の世界に魅了され、研究者を目指した学生時代

中学・高校のころから映画が好きで、いつか自分でも撮ってみたいとぼんやり考えていました。しかし、手段が一向に分からない。何しろ僕の生まれ育った場所は国道沿いに量販店が点在するような田舎。ネットでいろいろ調べてみるも、当時の自分を取り巻く周辺環境では実現することはできないだろうなと感じていました。そこで、まずは大学へ行こう、それもなるべく都会の大学へ(笑)。最初はそんな軽い気持ちからスタートし、大阪市立大学へ入学します。

大学へ入学するも、2回生まではあまり授業にも出ずに過ごしていました。しかし2回生の時に転機が訪れました。とても面白い統計学の教授に出会い、そこから数学にどっぷりハマっていくのです。入学当時、“連立方程式”さえ分からなかった自分がまさか数学に魅了されるとは思いもしませんでしたが、そこから一度は研究者を志ざし、東京大学を受験し合格。ただ、合格したはいいものの、学生の身である当時の自分には、入学金があまりに高額で。それなら、ある程度お金を稼げるようになってからその時にもう一度受験しようと考え直しました。どうお金を稼ごうかと考えた時、興味のある“映像”に携わりたいと思ったのがきっかけです。

映像か研究者か。そんな両極端な職業に興味を持ちながら、最終的に映像を選択したのにはワケがあります。ちょうど3.11が起きた当時、僕は図書館で一人数学の研究に耽っていました。ほとんどこもりっきりで、外の世界とは一切遮断された状況の中、僕はあの震災の出来事を1週間遅れで知ったのです。その時、研究の仕事がいかに孤独な作業の積み重ねかを知りました。数学は突き詰めていけばいくほど、周囲に理解者が減っていく。ある意味個人プレイな仕事でもあります。一方、映像は突き詰めただけ周囲に仲間が増えていく。僕はやっぱり一人で黙々と作業をするよりも、仲間と肩を並べて仕事することに魅力を感じていました。それで映像の道を選択したのです。ちょうど大学を卒業して少し経った頃の話です。

chapter 02
祖母にもらったコンデジで映像の道を切り拓く

大学卒業後、祖母にもらったコンデジがあったので、それを片手に映像の勉強を開始します。この話をすると大抵驚かれるのですが、勉強手法として選んだのはYouTubeでした。映画は好きでしたが、映像に関する知識は皆無。素人の自分にとって、YouTubeはとてもいい学びの場になりました。世界各国のプロたちが映像に関する無数の動画をあげており、それを無料で観ることができるのですから。基礎から応用まで一日に何十本もの動画を見ることで知識を蓄えていきました。コネやセンス、経験、お金がなくても、「いいものを作りたい」という気持ちと行動力さえあれば、一定のレベルまでは辿り着くことができます。そうして知識をつけた後、「よし実践に入ろう!」と思い、大阪の友人たちに声を掛けてみるも、周囲はみな社会人。もちろん全員に断られました(笑)。それならば全く知らない場所でゼロからスタートしようと上京することにしたのです。

しかし、映像の道は狭き門。経験がないと入ることさえできません。そんな時に知人から「映像の道に進みたければ、最初は結婚式の仕事から初めてみては?」と言われ、すぐに始めました。ですので、僕のキャリアのスタート地点は結婚式から始まっていきます。

結婚式の仕事では、撮影からインタビュー、録音に至るまで全て一人でやるので、この時得た経験は本当に多岐に渡ります。専門的と言うより限られた時間の中で全ての段取りを一人でこなす総合力が身についたと思います。しかし、この先いつか映画やCMを撮ってみたいと考えていた自分には、ずっと結婚式の仕事を続けている限り、ポートフォリオが完成しないという焦りもありました。いずれそうした道に進むためにと、結婚式の仕事の傍ら、コーポレート系のインタビュー映像も始めます。ここから徐々に仕事の幅が広がっていきましたね。

CMやMVの現場へ行くようになると、そこでは自分がYouTubeで得た知識が、現場では実際にどういう風に使われているのかを目で見て学びました。YouTubeだけでは足りない知識を現場で補っていくというイメージです。知識も現場の経験も付いてきた頃、結婚式時代の同僚と一緒に仕事をしたいと考えるようになりました。

しかし、個人では仕事が取りにくい。仲間と一緒に仕事をするために会社を設立することを考えたのです。それで2019年10月に一人で立ち上げたのが、株式会社Gurus Film Productionです。共に仕事するのは、結婚式のノウハウを持った信頼のおけるフリーランスの仲間たち。そこに自分が培ってきたCMやドキュメンタリーのナレッジも加われば、新しいジャンルにもチャレンジしていけるのではと考えたのです。仲間たちの協力や理解あるクライアントのおかげで少しずつ仕事も大きくなっていきました。

chapter 03
コロナ禍で働く人々にフォーカスした作品づくり

今現在、世界中の方が新型コロナウイルスの蔓延に苦しみ、各界が大きなダメージを受けています。僕自身もそれを痛感しており、4月以降の撮影はほぼ全てキャンセルになってしまいました。そんな中、自分と同じような想いをしている人は世の中に沢山いるだろうと思い、どうにかしてその人たちの役に立ちたいと考えました。そんな想いから制作した映像が2作品あります。

まず1作目。支援系のプロジェクトを調べていた時、「CRISP CONNECT」を知りました。Crisp Salada Worksを経営する宮野さんが立ち上げた同プロジェクトは、同社の商品であるサラダを通じて、医療従事者を支援する声を集めるというもの。自分がこれまで培ってきた映像のノウハウがこうしたタイミングで活かされたことは、とても嬉しかったです。

CRISP CONNECT

次に2作目。外出自粛で大きなダメージを受けた業種の中に、旅館業があります。ちょうど一緒に何か作りたいねと話していた先輩の友人が旅館を営んでいることが分かり、そこから電話でアプローチをして作ったのが長野県・下條温泉の「月下美人」の映像です。7月からは、旅館の従業員の方々へヒアリングを開始し、女将の紀子さんを主人公とした映像作品を作ることに決めました。

この時取り入れた心理学の仮説の一つ「ナラティブトランスポーテーション」(※)について少し説明させてください。これは簡単に言うと、物語の世界に入り込むほど、物語の中の出来事を人間は信じる傾向にあるという仮説です。今回の「月下美人」の例でいくと、ナラティブ(物語)の世界にユーザーが入り込み、まるで旅館に宿泊しているかのように感じてもらい、旅館のサービスを信頼していただくことがゴールでした。そこで、澄み切った綺麗な星空や温泉の水が滴るさま、朝食のチーズフォンデュから出る湯気、女将の吹くオカリナの響き。それら全てをリアルなサウンドと映像で表現することに力を入れました。
※出典:Green, M. C., & Brock, T. C. (2000). The role of transportation in the persuasiveness of public narratives. Journal of Personality and Social Psychology, 79(5), 701–721.

月下美人

映像を見ていただくと分かると思いますが、集客を目的とした商業的な台詞や描写は一切ありません。どちらかと言うと、ドキュメンタリータッチな作品になりました。短期的な利益を追求するだけなら、他のアウトプットもきっとあったでしょう。でも僕が大事にしたかったのは、長期的な利益。この映像をみた個人が、旅館「月下美人」のファンになってくれたら、リピーター顧客になってくれるかもしれない。そうするとその個人が一生涯にもたらす利益は大きなものになりますよね。そうした潜在層にアプローチするために、感動を与えるリアルなストーリーが必要でした。従業員の方々への事前アンケート含め、リサーチや準備に1ヶ月掛けました。そうして、女将・紀子さん自身の親しみやすい人柄、接客に対する考え方、コロナ禍での葛藤を中心としたストーリーが出来上がっていきました。

この時使用したカメラがVENICEです。僕は今回の「月下美人」の撮影で初めて使ったのですが、絶大に信頼できるカメラでした。内蔵NDが1stopごとにあるのでNDフィルターを付け替える心配がない、屋内のミックス光でも人の肌の色が綺麗に出る、真夜中のタイムラプス撮影でポスプロでノイズリダクションをかけなくても十分なほどノイズが少ない映像が撮れるといったVENICE独自の強みを実感できたので、さまざまな不安から解き放たれました。そのおかげで、僕は照明や音声、ディレクションや進行に集中することができたのです。また、VENICEはボディーを外して小型のジンバルに載せられる点もよかったですね。

chapter 04
マイノリティの裏にあるストーリーに迫る

また、昨年には在日バングラディシュ人のジェロームさんを追ったドキュメンタリーも作成しました。大久保にあるミラマートという外国人向けのコンビニで店長をしていたジェロームさん。他の従業員より二回りも年上で、どちらかと言うと口数が少ない方でした。ひょんなことから彼のバックグラウンドを知り、ものすごく興味が湧いたのです。

昨年1月に彼が生まれ育ったキリスト教の少数民族が住むラフットハティを訪れて制作したこの動画。彼が生まれ育った町では、高齢者に対する扱いがあまりいいものではないそうです。日本に来て、高齢者向けの施設や、そこで楽しげに楽器を演奏する高齢者の方を目の当たりにし、こんな日常を自分の地元でも実現したいと考えている人なんです。

コンビニ店長という仕事は、その夢を実現するための資金集めが目的。彼が夢を実現するまでに、きっと時間はかかると思います。でも、そんなジェロームさんの夢の話に僕は強く惹かれ、移民の方のリアルなストーリーを発信したいと感じました。この映像で、世界の現状を少しでも知ってもらえたらいいなと思っています。

Living in Japan, Dying in Bangladesh/ Trailer

chapter 05
今後の新たな挑戦

冒頭でお話した通り、学生時代から映画が好きだったので、映画を撮ってみたいという気持ちももちろんありました。実際、昨年初めて映画の現場で仕事をする機会もあり、新鮮で楽しかったです。しかし、やっていく中で見えてきたのは、映画というジャンルにこだわりがあるのではなく、根本にはいいストーリーを映像にしたいという想いでした。見た人に何らかの影響を与えることができなければ、僕が映像を作る意味はないと思っていて。今はこういうタイミングなので、有名人もそうでない人も、それぞれがそれぞれに言いたいことを胸にしまっていると思います。そういった小さな想いを自分が映像として、世の中に発信していくことができたら素敵だなと思っています。

語弊のある言い方かもしれませんが、僕はセンスという言葉があまり好きではありません。僕のように映像系の学校を出ていないと、現場で苦労することって正直多いと思うんです。キャリア初期に、センスがないことを理由にいい仕事がいただけなかったという経験もありました。その度に「センスってなんやねん!」と思ってましたね(笑)。

センスという言葉を実践可能な形にかみ砕いて理解することで、成長できたと思います。実践可能なので誰かにそれを簡単に教えられ、一緒に成長することもできます。そうやって自分の周りの人たちと一緒に能力を上げて仕事も大きくなり、仕事以外でも自分たちが大事だと思うプロジェクトを協力しあいながら取り組む関係性を作ることが自分の人生にとって大事だと考えています。

あとがき

藤井氏の作品は、まるでその世界観に入り込んでしまったかのような没入感を私たちに与えます。その背景には、課題の本質を見抜き、どうアウトプットすれば解決に導けるのか、というロジカルな視点がありました。見た人の心を揺さぶる感動的なストーリーは彼の頭の中で設計され、周囲を巻き込みながら作品となり、やがて大きなうねりとなって、世の中に強いインパクトを与えていくーー。藤井氏の作品は、今の時代を生きる私たちに大きな爪痕を残すのではないかと強く感じた取材でした。今後も、ストーリー性を重視した作品づくりをしていくと話していた藤井氏。今後の作品にも注目していきたいです。

Text : Yukitaka Sanada
Photo : Yuji Yamazaki

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