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スポーツに変革をもたらすデータアナリティクス

Chamber 33
2019.4.13

スポーツに変革をもたらすデータアナリティクス
サッカーのデータ分析最前線

テクノロジーの進化により、刻一刻と変わっていくのはビジネス業界や我々のライフスタイルだけではありません。近年、スポーツの世界も大きく変革を遂げています。

世界で最も人気のあるスポーツと言われるサッカーも、カメラや画像認識技術の進化、スタジアムのIT化などにより詳細なデータが即座に取得できるようになり、戦略、戦術、さらには選手の評価にまで影響を与えています。サッカー、野球を中心にさまざまな競技の試合分析を行っているデータスタジアム株式会社にて、サッカーアナリストとして活動する久永啓さんに、データ分析の進化と未来、その可能性について、お話を伺いました。

スポーツに変革をもたらすデータアナリティクス

―サッカーにおいて、テクノロジーを活用したデータ分析はどこまで進んでいるのでしょうか。

「サッカーの試合で取得できるデータとしては、主にプレイデータとトラッキングデータの二つに分類されます。プレイデータは、選手がボールに触ったプレイのデータのことを指します。パス、シュート、クロスの回数、さらにはゴール、アシストなどがそれに当たります。

サッカーでは1試合で2000回程度のプレイがあるのですが、そのワンプレイ、ワンプレイで、『誰が、いつ、どこで、何をして、どうなったか』というデータを細かく取得していきます。例えばパスであれば、どの選手が、どの時間に、どこからどこへパスを出し、それが成功したのか、失敗したのかをデータとして入力していくわけです。そのデータを集約したものがプレイデータです」

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―それではトラッキングデータとはどのようなデータなのでしょうか。

「サッカーは野球とは異なり、動作が途切れることなく、45分ずつ続いていきます。ピッチにも22人の選手が入り乱れていますよね。そのため、直接ボールに触ったプレイだけではなく、その1人を除いた、21人がどう動いているかも大事になってくる。

そこで、ボールに触っていないときの動きを収集したものが、トラッキングデータになります。例えば、出場した時間における各選手の走行距離やスプリント回数などのデータがそれにあたります。これはまさしくピッチ全体を仔細に捉えるカメラや画像認識技術の進化によって、取得できるようになったデータだと思います」

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—プレイデータはどのように数値化しているのでしょうか。

「プレイデータはピッチに見立てた専用の入力システムに、専門のスタッフが映像を見ながら、プレイごとに入力していきます。入力システムもかなり進化しているのですが、それでも1試合のデータを取得するのには約10時間を要します。当社では、データの質を重視しているので、専門のトレーニングを受けたスタッフがデータを収集し、さらに検証を行い、各試合をデータ化しています」

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—収集したプレイデータはどのように活用されているのですか。

「集計されたプレイデータは、選手やポジション、時間帯など特定の条件に絞ったデータだけを抽出することもできます。例えば、ある選手が90分間プレイして、いわゆるゴール前、アタッキングサードへのパスを1試合で20本出していたとします。それをどの位置から出して、何本成功し、何本失敗したのか。成功率も数値として算出することができるのです。

そうした数値を選手ごとではなく、チーム単位で算出することもできますし、データを確認するクラブの監督やコーチが何を見たいか、何を知りたいかによって選択できるようにもなっています。プレイの一つひとつが映像とリンクしているので、見たい場面を抜き出して再生することも可能です。以前は、それぞれのチームの分析担当コーチが試合を見ながら、必要なプレイ箇所をメモし、映像編集を行っていたので、これはチーム内での作業効率をかなりアップさせていると思います」

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—もう一つのトラッキングデータはどのように取得しているのでしょうか。

「こちらに関しては自動化されています。当社では、スタジアムにミサイルの追尾機能を応用したカメラを持ち込み、パソコン上にピッチを描き出し、選手を追尾する印を表示して追いかけています。これもプレイデータと一緒で、誰が、どこにいて、その瞬間のスピードを算出する仕組みになっています。1秒間に25フレームのデータが記録されていくのですが、1試合で90分間出場した選手になると、だいたい17万行くらいのエクセルデータになります。それが少なくとも22人はいるので、かなりのデータ量になるわけです。

このトラッキングデータは、2015年からJリーグでも活用されるようになりました。それまで目に見えなかったデータを可視化できるようになったことで、日本サッカーにおいてもデータ分析に対する認知度が一気に広まったように思います。現在、当社はJ1、J2のほぼ全クラブと契約し、プレイデータとトラッキングデータを提供しています」

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—ただ、テクノロジーの進化によって取得できるようになったさまざまなデータも、どう活用するかによって大きく結果や成果に表れていくように感じます。

「まさにそのとおりです。サポートしているチームに対して、どのデータが重要なのかをディスカッションできるかどうかが大切だと思っています。また、データを活用する前提として、そのチームがどのようなサッカーを目指していて、このポジションの選手には、こうした動きを求めているといった明確なビジョンがなければ、いくら多くのデータを提供したところであまり参考になりません。

そのチームの監督やコーチが、自分たちが志向するサッカーをどう整理してピッチ上に落とし込むかが重要になってきます。私は現場のコーチを経験していたこともあり、データはあくまで客観的なものだと考えています。サッカーにおいては主観と客観の両面がありますが、データを活用することによって、それぞれを補完することができるんです。

監督が目で見て、何となく強化したほうがいいと思っている主観的な部分。いわゆる目で見て気づいていたところを、客観的なデータを活用することで、より明確にでき、さらにスピーディーにチーム内で共有することができる。これはスポーツに限ったことではないと思いますが、ロジカルであることで、データと思考がマッチする、とでも言えばいいでしょうか」

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—サッカーの最先端を走っているヨーロッパと比べると、日本はまだまだ技術や戦術も遅れていると言われています。データ分析の分野はいかがでしょうか。

「取得できる情報量に、それほど差はありませんが、データを活用する頻度と積極性においては、まだまだ差があると思っています。ヨーロッパには分析を行う企業もたくさんあれば、スポーツにおいてデータを積極的に活用しようとする土壌がある。これは持論ですが、もともと、ヨーロッパはロジカルに物事を考え、意志決定を行っていく人たちが多いように感じます。一方、日本はエモーショナルというか、その人の勘や気質、人間関係などを重要視する傾向が強い」

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—ヨーロッパでは、サッカーがより強固なビジネスとして確立しています。つまり試合での勝利が非常に重要なビジネスファクターとなり得ているため、データ分析の進歩も不可欠だったのではないでしょうか。

「そうですね。これはビジネスの世界にも当てはまるのかもしれませんが、データが正しい答えを導き出していても、『理屈じゃない』と跳ね返されてしまうこともあると聞きます。国民性や文化といったら大きな話になりすぎですが、日本ではそのような傾向があるのかな、と。ただ、サッカーは世界と戦っているので、国内の常識だけにとらわれていては太刀打ちできない。

また、Jリーグにも、近年は外国籍の監督も増え、徐々にデータに対する考え方も変わってきています。だからこそ、次のステップとして、そうしたデータを使いこなせる、正しく活用できる人材を育成していく段階に来ている。私自身も、これまで現場のサッカーアナリストとして活動してきましたが、今は少し立場が代わり、データ分析の世界における人材育成に力を注いでいます」

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—今後、サッカーにおけるデータ分析は、どのように進歩していくとお考えですか?

「私自身現場の指導経験もあるだけに、一流の監督の目は正しいと思っているんです。というのは、得られるデータから監督が気づくことのできる戦術的な課題というものは、現状それほど多くないとも感じているからです。そのためデータは、監督の考えを裏付ける説得材料としてあると思っています。ただ、2018年FIFAワールドカップから、ルール的にベンチでデータを確認することが認められるようになりました。今後、スタジアムの設備や環境が整い、リアルタイムで情報が見られるようになっていけば、戦術変更や選手交代など、指揮官が意志決定をする場面での判断の質を上げたり、サポートしたりすることができるようになるかもしれません」

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—それでは、テクノロジーの進化がサッカー界の未来にもたらすものはなんでしょう?

「GPSを使って日頃の練習から、走行距離などを測れるようになり、選手のコンディションを知ることができるようになっているのですが、ゆくゆくはメンタル面までも把握できるようになっていくかもしれない。

また、スタジアムで同時にさまざまな角度から映像が撮れるようになり、その解像度がさらに高まれば、選手の目線や身体の向きもデータとして取得できるかもしれません。あのペップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)も『選手がプレイしている身体の向きを知りたい』と話しているとも聞きます。それができるようになれば、データが戦術的な部分にも大きく関わってくるようになるはずです。

例えば、現ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタ選手。彼のプレイを俯瞰映像で見ていれば、通せないようなスペースでも、彼はあっさりパスを通している。そのときの彼の目線を見ることができ、さらにその目線をVRなどの映像で再現できれば、彼にしか見えていないパスコースを知ることができます。そうなれば、試合だけでなく、目線を体感できるトレーニングもできますし、さらにはユースや少年サッカーなど、これからの若い選手の育成という部分においても、成長速度を加速させることができるようになっていくと思います」

スポーツに変革をもたらすデータアナリティクス

スポーツのデータ分析の分野は日進月歩。ただ、その認知や活用の可能性はさらに広がっていることを久永さんは語ってくれました。
テクノロジーやAIの進歩により、さらに精緻化したデータや解析技術がもたらされるはずです。その進歩が日本をワールドカップ優勝に導く未来も、決して夢物語ではないかもしれません。

スポーツに変革をもたらすデータアナリティクス

久永 啓

データスタジアム株式会社 アナリスト

1977年生まれ。2006年、プロコーチとしてサンフレッチェ広島に入団。アカデミーの指導者として活動した後、2012年、トップチーム分析担当コーチに就任し、Jリーグ2連覇に貢献。2014年、データスタジアム株式会社に入社し、育成年代からプロレベルまでの分析サポート、およびアナリストの育成を担当する。

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