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東京修復保存センターを訪ねて

Chamber 37
2019.8.13

東京修復保存センターを訪ねて
~修復から考えるデジタルアーカイブの可能性~

東京都下有数の梅の名所としても知られ、のどかな里山の景観が残る青梅市の梅郷(ばいごう)。この地に拠点を構える東京修復保存センターは、文化財をはじめとした歴史的な紙資料の修復を専門に行っています。1988年の創業以来、日本の修復技術の素地を固め、「大量修復」の考えを広めてきた東京修復保存センターに、ソニービジネスソリューションでデジタルアーカイブの推進を担当する千明悟が訪ねました。

東京修復保存センターを訪ねて

千明 悟| SATORU CHIGIRA
ソニービジネスソリューション株式会社 営業部門 デジタルアーカイブ営業課

今回案内してくださったのは、東京修復保存センター取締役でコンサバター(修復家)の児島聡さんです。

―東京修復保存センターのミッションとはどのようなものでしょうか。

「当センターは、デンマーク王立アカデミー文化財修復技術学院で技術を学んだ初代代表の坂本勇が1988年に設立しました。当時、日本にはまだ普及していなかった大量修復の実現と、欧米のようなアーカイブに対する高い意識や考え方を浸透させることをミッションに掲げ、公文書や古文書、建築図面といったあらゆる紙資料の修復保存に取り組んでいます。」

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―具体的な修復の依頼はどんなものが多いですか?

「歴史的な文化財のほかに、図書館や博物館といった所蔵機関の資料の修復や、製本、大量に描かれたデッサンの修復依頼などもあります。修復する資料の時代背景は、古いものでは鎌倉時代から、江戸時代以降の近代のものまでと幅広いです。最近、特に多いのは図面の修復ですね。2018年に明治150年を迎えたことを背景に、歴史的な建造物の保存が見直され、周辺情報としての図面もまた重要なアーカイブの対象として認知されてきているようです。」

東京修復保存センターを訪ねて

―「大量修復」の考え方について詳しく教えていただけますか。

「大量にある所蔵資料に対して、貴重な資料のみを選別し、一点一点修復をするのは、時間もコストもかかり過ぎてしまいます。“群”として存在する資料を残し、今後も利用していくためには、いかに効率的に保全していくかを考える必要があります。それを実現するために1980年代に日本に導入されたのが、ここにあるリーフキャスティング・マシンです。東欧で開発研究され、60年代に西ヨーロッパに紹介された技術で、今までの伝統的な技法による一点修復主義に変化をもたらした、エポック的な出来事でした。」

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―リーフキャスティングとは具体的にどんな技術ですか?

「紙すきの原理を使った技術で、虫食いなどによる欠損部分にだけ修復用繊維を充填し、紙の厚みを変えずに穴を埋めることができます。そのため書籍などを修復するのにも適しています。糊を一切使わず、水の水素結合の力で紙の繊維を接着させるため、また水を加えれば再修復ができる可逆性があることもメリットです。」

東京修復保存センターを訪ねて

―修復・保存とデジタルアーカイブの関係性について教えてください。

「実は、リーフキャスティングを使った本格的な修復は減少傾向にあります。2005年頃からは、原本に加えてデジタル化した写真データなどを一緒に納品する事例が増え、原本を本格修復する必要性が薄れてきました。資料をデジタル化する場合、重要になるのは書かれた情報。原本の修復は最小限の手当て程度で済むため、コストも抑えられます。所有者にとっては、資料の活用方法や予算に合わせた修復方法の選択肢が広がったと言えます。

ミニマムな修復で済ませられるということは、所有者にとっても我々にとっても負担の軽減という意味では大きな意義がある一方で、コストの削減や保全的な意識が高まりすぎて、本格的な修復が激減していく恐れもあります。デジタル化すればそれで安心というわけではなく、時代が変われば技術や形式、機器は変化していきますし、情報を永久に保存できる保証があるわけではありません。その点から考えると、原本が残っていれば、その時代にあわせた再修復や媒体の変換も可能になる。そのためにも私たちは、修復技術を継承し、退化させないことが必要だと考えています。」

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―日本と海外のアーカイブに対する考え方にはどのような違いがありますか?

「オランダを筆頭に、欧州では歴史的な資料の保護や修復に対しての意識が高く、アーカイブは国民の宝であるといった考え方が根付いているため、十分な国家予算が割かれています。ある有名な欧米のSF映画では、登場人物が過去の出来事について調べるために、公文書館を訪問するシーンがあり感心しました。つまり、公文書館は「調べ物のために訪れる場所」であるということが一般的にも広く認知されているということですね。日本ではまだ、公文書館を利用する人は歴史研究者や愛好家などごく一部に限られると思います。また、海外の公文書館には、専門職員のアーキビストが必ず配属されていますが、日本では専門機関であってもアーキビスト不在のケースが多い。今後さらに需要が増えるデジタル化の対応や取り組みを考えると、専門家としてのアーキビストの育成も重視していくべきでしょう。」

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―今後の日本の修復・保存、アーカイブについて期待されることはありますか?

「日本のように高温多湿で自然災害の多い環境の中では、資料の保存やデジタル化は、さらに考えていくべき課題の一つです。文化や歴史を守るために、アーカイブに対して国全体が意識を高めて取り組んでいく必要があります。また、日本特有の事情として、一般の家庭に貴重な資料が眠っていることが多く、今後は個人レベルで気軽にアーカイブができるような技術も実現されるといいですね。例えばスマートフォンを活用したアプリなども考えられます。自分で撮影した資料に最適な画像加工ができ、それを連携する専門機関に送るとアーカイブとして取りまとめてもらえるというような。それによって新たな史実が発覚し、歴史が大きく覆されるといったドラマが起こるかもしれません。」

東京修復保存センターを訪ねて

修復後の資料の活用方法や予算によって最適な技法を選択し、保存方法の提案も行う東京修復保存センター。資料の所有者に寄り添う姿勢と、修復・保存にかける情熱、長年の経験の中で培ってきた見識の深さを肌身に感じました。貴重な歴史的資料や文化財を未来に残していくためには、所蔵機関や所有者がアーカイブに対しての主体性を取り戻し、意識を高めていくことが必要不可欠です。デジタルアーカイブの普及・推進に携わる立場としても、そのためにできることを考えていきたいと思いました。(千明 悟)

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東京修復保存センター

東京都青梅市梅郷4-655
http://www.trcc.jp
(通常は見学不可)

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