位置情報の「ビッグデータ」は新しい潮流

Chamber 48
2020.8.20

位置情報の「ビッグデータ」は新しい潮流
多くの情報やAIを使って社会が抱える課題を解決する

位置情報のビッグデータから、人の動き、すなわち「人流」を解析する動きが活発になっています。災害時の状況把握や観光施策、最近では新型コロナウイルスによる人の行動分析にも活用されています。Agoopも、位置情報から人流を解析する企業のひとつ。ただし、取り扱うのは位置情報だけでなく、スマホのセンサーから得られる移動スピードや高度、気圧といったさまざまなデータを組み合わせ、より確かな実態を捉えています。今後はこのような多くの種類のデータを解析し把握することが、ビッグデータの未来を担うようになるかもしれません。Agoop 代表取締役社長兼CEOの柴山和久さんにその意味を伺いました。

位置情報の「ビッグデータ」は新しい潮流

――コロナ禍において、スマホの位置情報が活用されています。Agoopも、内閣府が設立した「V-RESAS*」に人流データ解析を提供しています。膨大な位置情報データは、年々重要性を増しているのではないでしょうか。

「現在、位置情報のデータ量は急速に増えていて、それに伴い取得できるデータの種類も増えています。1台のスマホから得られるのは位置情報だけではありません。高度や人がどのように進んでいるかといった角速度、気圧などを測定できるセンサーがついており、ユーザー同意のもとで、これらの情報を組み合わせて活用することができます。

Agoopのデータ量はかなり拡大していて、月間3億ログほどのデータ量だったのが、今では210億ログほどになっていて、それらのデータを組み合わせて解析しています。位置情報という1種類の情報だけでは、データ量が増えても用途は限定的になってしまいます。しかし、多くの種類のデータを組み合わせれば、それは正確で詳細な“ディープデータ”になります。たとえば道路状況を把握したい場合、加速度センサーから人流と車の交通量を判断できますし、気圧情報から雨と渋滞の関係も推測できます。より詳細な把握と分析ができるのです。

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©Mapbox, ©OpenStreetMap, ©Agoop

扱う情報の種類がさらに増えれば、データ提供者が少数でも深い分析ができます。位置情報のみなら1,000台の端末データが無ければたどり着かない答えも、1端末から多種な情報を得られるなら、10台で同じ答えが見えるかもしれません。ビッグデータの掛け合わせについてはまだ発展途上です。またあくまでスマホのデータは個人の同意で提供されます。プライバシーに関わる情報となるので、データの数がいきなり増えていくとも考えられません。その意味でも、1端末から得る情報を多くしていくことは重要です。これがビッグデータの次なる潮流となる『ビヨンド・ビッグデータ』の考え方です」

*V-RESAS:内閣府が公開した新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響を地域ごとに把握できるデータのまとめサイト。エリアごとの移動人口やスーパーのPOSレジを使った売上高の変化をグラフや数字で確認ができる。V-RESASにはAgoopの流動人口データが使用されている。

――ディープデータの解析により、どんなサービスを提供されているのでしょうか。

「自治体では、災害時の避難状況や交通インフラの把握に使われています。2018年6月の大阪府北部地震を例にとると、通常、7〜8時台の通勤ラッシュ時は、高槻市の線路沿いに大きな人の動きが起きています。これらは加速度センサーの情報から分かるデータで、大きな動きは青いラインで表現されています。その後、10時頃には人の動きがなくなり、ラインが消失していきます。

しかし、震災発生日は、地震が起きた7時58分を境に、青いラインが消失しています。電車が止まったためです。加えて、周辺の人々がどう移動しているか、どこで足止めになっているか分かります。こういった人の流れをリアルタイムで見られるため、行政による災害対処方法、避難指示の出し方の検討に活用できます。

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また、今年7月には熊本県人吉市で大雨被害がありました。この際も人吉駅周辺の滞在人口について、通常時(6月27日)と災害時(7月4日)を比較しています。通常時と違う場所での滞在は、取り残されている可能性もあります。こういった情報は人命の救助や避難支援につなげることが可能です」

――人の流れも新型コロナウイルスによって変わったと思うのですが、そうした人流変化データも積極的に発表されていますよね。

「はい。V-RESASでは、移動人口と滞在人口の動向を時間別や地域別に発表しています。また、弊社ホームページに新型コロナウイルスの特設サイトをつくり、人流変化の解析を公開しています。たとえば特定の地域の人の流れや速度を点で可視化した『ポイント型 流動人口データ』や、 エリア内を一定の距離でメッシュ状に区切り、人口を統計化した『メッシュ型 流動人口データ』などを発表しています。そのほか、前年同月の流動人口と比較したデータも掲載しています。

さらに、観光や店舗計画でも人流データは使われています。たとえば観光分野では、京都府への国内観光客をリサーチしました。大阪府からの来訪がもっとも多く、次点では関西圏、そして関東・東海の都市部が続きます。一方、距離が近く、新幹線でアクセスも容易なはずの福岡県が、人口規模の割に観光客の少ないことに気付きます。福岡県には需要を喚起できる余地があるとも考えられ、広告・PR施策にも活用できます」

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――インバウンドにおける人流データも分析されているのでしょうか。

「Agoopは世界に展開されているスマホアプリからユーザー承諾を得てデータを集めており、携帯会社や国などに限定されずにデータを取得することが可能です。実際に外国人の足取りを分析してみると、東アジアと欧米の訪日客では傾向が異なっていました。京都府で人気の観光地を調べたところ、東アジアは清水寺が2位ですが、欧米は7位。東アジアは、いわゆる有名な観光名所を好む傾向ですが、欧米では祇園四条などのカルチャーを感じられるスポットが人気です。この傾向はほかの観光地でも共通です」

――店舗計画においては、どのようにデータを活用するのでしょうか。

「弊社のサービス『Shop Studio』では、店舗側の持つデータと我々の人流データを組み合わせ、AIによってどのエリアなら店舗収益が見込めるかを予測しています。店舗の閉店を考える際にも有効で、たとえば近いエリアにある2店舗のうち、どちらかを閉店したい場合、人の流れと売上、競合店舗の場所などを総合的に分析し、各店舗の閉店シミュレーションを実施、その影響を算出します。

このようなデータ活用は、アフターコロナの状況下ではきわめて重要になるでしょう。新型コロナウイルスにより私たちのライフスタイルが大きく変わると考えられ、今までと違う方向性の店舗戦略が必要になるはずです。そういった際に人流データとの組み合わせは価値を持つと考えています」

位置情報の「ビッグデータ」は新しい潮流

©OpenStreetMap Contributors

――具体的には、どのような価値を持っていくのでしょうか。

「この期間にリモートワークが増加しました。仮にコロナが収束したとして、働き方が完全に昔の通りに戻るとは限りません。とすると、人の流れが変わります。今までは、日中ビジネス街に人が集まりましたが、今後は住宅街での滞在が今よりも増えるかもしれない。また、在宅勤務で良いのなら、東京ではなく地方に住んで仕事をする人も出てきます。

これまでの首都中心ではなく、郊外型・分散型の社会になるかもしれません。ライフスタイルに大きな変化が起こり得るタイミングです。であれば、企業も人の動きの変化をいち早く捉えて、店舗戦略を練るでしょう。人流データが重要度を増す理由です」

――ちなみに、ビッグデータ活用はAIとセットで語られるケースが多い印象です。先ほどの話にもありましたが、御社もAIが取り入れられていますよね。

「AIはビッグデータ分析に無くてはならない存在です。膨大なデータの中から“異変”や“違い”を見つける作業、つまり差分抽出をするうえで必要不可欠なのです。たとえば先述の大阪府北部地震について、震災直後に消えた一本の青いラインを人の眼で瞬時に見つけるのは至難の技です。データの範囲が広くなり、量も膨大になるほど、平常時と違って、異常検出の難易度は上がりますがAIはそれが可能です。データ分析の結果をまとめることも人間と比較すればスムーズに行えるので、弊社ではレポートのRPA(ロボットによる業務自動化)を進めています。

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©Mapbox, ©OpenStreetMap Contributors

それに対して人間の役割は、データの変化や異常を的確に見抜けるAIの「開発」、そして、どの種類のデータを組み合わせ、AIに読み解かせるかという「データ設計」でしょう。後者を行うのが、データサイエンティストだと考えています」

――これからビッグデータ領域はどう進化していくのでしょうか。

「やはり、多種多様なデータを重ねる分析が進むと思います。位置情報という1種類のデータ量を増やすだけでは新たな発見は生まれにくいですし、個人情報の観点でも活用範囲の拡大が難しいと言えます。『ビヨンド・ビッグデータ』の考え方に繋がりますが、取得できる情報の種類を増やし、混ぜ合わせることで価値あるデータになるでしょう。

実際、位置情報は人口密度の高い都市部では有効ですが、過疎地域では有効性が弱まります。そもそものデータ量が少ないためです。そういった場所でどう有効なデータを得るか。そのためにも、新たなデータの組み合わせ方が求められます」

――その視点で、今後考えられる「新たなデータ」はありますか。

「一つの可能性として挙げるなら、道路や街に設置されたカメラの映像です。AIの画像認識技術は高く、映像から車やバイク、電車の往来をデータ化できます。個人は特定されない形でこのデータを取得できれば、位置情報を補う有用なデータになり得ます。警戒される方も多いと思いますし、理解を得られなければ導入はできません。しかし、過疎地域が抱えている空き家の増加や少子高齢化などのさまざまな課題解決につながる可能性もあります。個人が特定されないこと、そしてそれが地域や生活を豊かにすること。データ活用の安全担保とメリット周知も今後大切になるでしょう」

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©Mapbox, ©OpenStreetMap, ©Agoop

コロナ禍でも存在感を発揮するビッグデータ。分析技術は高度化し、多種類のデータを組み合わせることが新たな潮流となっています。近年多発する災害、そしてアフターコロナでのライフスタイルの変化。その中で、人の動きをリアルタイムで解析し、カスタマーニーズの分析、各々のライフシーンを把握することにより新たなビジネスに繋げられるかもしれません。同時に、データ取得に対応した車やスマートフォンといったIoT端末のさらなる進化も求められるはずです。データ分析の進歩、そこに関わるAIやIoTの重要性が分かりました。

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柴山 和久

株式会社Agoop代表取締役社長兼CEO

2003年、ソフトバンクBB株式会社(当時)に入社。「地理情報システム(GIS)」を活用したデータ解析システムの企画開発に携わる。2009年4月、ソフトバンクのグループ会社として株式会社Agoopを設立、取締役に就任。2013年、代表取締役社長に就任。2015年ソフトバンク株式会社ビッグデータ戦略本部長、2019年ソフトバンク株式会社ビッグデータ戦略室長を兼務。 データサイエンスのAI化、RPA化を推進している。

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