CG映像の未来像を模索する

Chamber 59
2021.10.13

CG映像の未来像を模索する
オリジナリティーある作品を生み出すための「素材づくり」へのこだわり

フェスやイベントがオンラインで開催されることが増え、CGを活用した新しい映像表現の需要が急速に高まっています。リアルと映像を融合させたライブパフォーマンスや、そこに流れる空気さえ感じられるような仮想空間……映像技術の進化は、私たちにどのような体験を提供してくれるでしょうか? ROCK IN JAPAN FESTIVAL、COUNTDOWN JAPANなど国内最大級の音楽フェスのCG映像を担当し、2020年・2021年版「映像作家100人」に選出された映像アーティストの小西芽衣さんに、これからの時代の映像制作について伺いました。

CG映像の未来像を模索する

――映像クリエイターを志したきっかけを教えてください。

「大学2年生のときに、ダブルスクールでデジタルハリウッドのイラストレーターとフォトショップの講座を受けたことが始まりです。父がアパレルブランドを経営していて、デザイナーさんの仕事を見ているうちに、グラフィックデザインを勉強してみたいと思ったんですね。学校の先生に『コーディングを学べるコースもあるよ』と教えてもらって。Webデザイナー専攻というコースに半年間通った結果、できることが増えていくのが楽しくて、すっかりのめりこんでしまったんです。卒業後は、Yahoo!JAPANに就職。グラフィックデザインやWebデザインなどの仕事に携わっていましたが、動きのあるものを作りたいと思い、1ヵ月ほど学校に通って、AfterEffectsという映像ソフトを学びました」

――映像の仕事を本格的に始めたのは、いつ頃ですか?

「2017年頃から、映像の仕事に携わる機会が増えてきました。ターニングポイントとなったのは、『COUNTDOWN JAPAN 18/19』の装飾映像コンテストで最優秀賞を受賞したこと。これをきっかけに、映像クリエイターとしての認知度と仕事の場が広がっていきましたね。翌年の『COUNTDOWN JAPAN 19/20』では、会場装飾映像の全478本を任せていただき、すべて一人で制作しました。私の作った映像が会場の通路やステージを彩り、アーティストと観客が映像を見ながら年越しのカウントダウンをする……。興奮や感動といった言葉では言い表せない、凄まじい感情が押し寄せてきました」

CG映像の未来像を模索する

――全478本とは驚きですね。「こんなイメージで作ってください」というオーダーはあったのでしょうか?

「イメージの指定はなく、『何でもいいから、好きなものを作ってくれればいいよ』といったオーダーでした。私はもともと音楽が好きで、フェスにもよく行っていたんです。『COUNTDOWN JAPAN』は、空間全体が宇宙のような造りなので、その空気感に寄り添うものを、と思いながら映像を作り始めましたね」

――478本の映像を作るうえで、特にこだわった点は?

「ネオンのように光る素材を取り入れたことです。黒い背景を敷いて、その上に光る素材をのせて真っ暗な会場で流すと、ネオンが宙に浮いているように見えるんですね。ネオンの表現は、『COUNTDOWN JAPAN』の空間ともよく合っていたと思います」

CG映像の未来像を模索する

――小西さんの映像を見ると、物の質感やシームレスな動きが心地良く、そのあたりにこだわりがあるのかなと感じます。作品づくりにあたって、一貫したコンセプトのようなものはありますか?

「コンセプトはありませんが、『素材から作る』ことにはこだわっています。映像業界では『アセット』と呼びますが、例えば"木"や"ビル"など、制作に必要な素材データは無料配布や有料販売で手に入れることができるんです。ただ、そういった素材を使ってしまうと、どうしても既視感のある映像になりやすい。プロが見たら『あのアセットを購入したんだな』と、一目瞭然です。風に揺れるレースのカーテンや、凹凸のある壁の質感など、時間がかかってもできるだけ一つひとつの素材を自分で作り、オリジナリティーのある表現を追求していきたいと思いますね」

CG映像の未来像を模索する

――憧れの映像クリエイターや、これまでインスピレーションを受けた映像作品はありますか?

「海外のアーティストの作品に影響を受けることが多いですね。特に影響が大きかったのは、CGをやっている人なら誰でも知っている、Beepleというアーティスト。最近も、NFT(非代替性トークン)の作品が約75億円で落札され、話題になりました。Beepleは、繊細な表現はもちろん、『毎日一つ作品を作る』といった、アーティストとしての姿勢そのものに学ぶ点が多い。私もそれにならい、今も毎日、映像作品を作っています」

――作品づくりを通して、毎日新しい挑戦をされているんですね。作品をどんな風に構想して、どのような流れで作っていくのでしょうか?

「『今日はCinema 4Dのこの技術を使ってみよう』『キャラクターが動くアニメーションを作ってみよう』などと目標を決めてから、手を動かしていきます。時間を区切らないといつまでも手直しをしてしまうので、タイマーをセットし、モチーフを作りながら動きやディテールを調整しますね。淡々と作っているような言い方をしましたが、大体、ラスト10分くらいで慌てて色を決め、仕上げていくことが多いです(笑)」

CG映像の未来像を模索する

――グラフィックや映像作品以外で、インスピレーションを受けるものはありますか?

「最近は、植物の生長を見るのがすごく好きです。家にある植物を観察したり、タイムラプスで撮った映像を見たりすると、CGで再現せずにはいられなくなりますね。ちょうどいま勉強しているのが、繊細なアニメーションを作りやすいソフトなんです。植物が生長する動きやタイミングをできるだけリアルに再現できるように、知識と技術を蓄えているところです」

CG映像の未来像を模索する

――ご自身のスタジオ「GENERATIVE ART STUDIO」のイメージ映像にも、無数の葉や実が枝を覆い、育っていくCGが組み込まれていますね。

「あのCGは、完成までに1週間ほどかかりました。一つひとつの素材を作るだけでなく、重力を計算したり、葉が伸びていくスピードを調整したりしたので……。そういった部分が非現実的だと、いくら素材をリアルに作っても、違和感が出てしまうんです」

――小西さんの映像は、粒が集まったり、弾けたりするような表現も多いですよね。あれらの粒の動きも、一つひとつ制御されているのでしょうか?

「粒を一つひとつ制御するのは大変なので、物理演算の機能を使って動きを生み出しています。簡単に説明すると、粒の重量や、壁に当たったときに跳ね返す力を設定し、画面の外側にはみ出さないよう囲いを作ってから、風を起こすんです。設定値がおかしいと、粒がパーッとどこかに飛んでいってしまうこともありますね。どのような動きになるか、やってみなければわからないので、実験のような感じで楽しんでいます」

CG映像の未来像を模索する

――CGソフトで、そんなこともできるんですね。CGといえばハリウッドというイメージがありますが、ハリウッド映画などを見て、表現方法を学ぶこともありますか?

「ありますね。特に、ディズニー映画は参考になります。光の反射や水のゆらぎなど、誰も気づかないようなディテールまで作り込まれていて、感動しますね。ディズニー映画ではありませんが、最近では『ゴジラvsキングコング』のCGのクオリティーに圧倒されました。キングコングが収容されている森の世界観や、街が崩れていく様子など、細部にわたって丁寧に作り込まれていることが分かりました。ジャングルに育つ小さい植物も一つひとつ作られていて、『そこまで作らなくていいのに』と思ったほどです」

――映像クリエイターとして仕事を始めた2017年からの4年間で、CGはどのように変わってきたと感じますか?

「一番変わったのは、映像ソフトがサブスクリプションで購入できるようになったことでしょうか。それまでは、数十万円払ってソフトを買い切りしなければいけなかったので、必要なものを慎重に選ぶ必要がありました。ところが、今は月4,000円程度でさまざまなソフトを試せます。サブスクになったことによって、CGをやってみたいと考える人も増えたなと思いますね」

CG映像の未来像を模索する

――コロナ禍以降、オンラインライブが主流になり、CGを使って舞台と映像をミックスさせるような演出も目にするようになりました。

「ハリウッドなどでも使われている、Unreal Engine(アンリアルエンジン)というソフトがありますが、そのソフトで空間を全て作り、ロケに行かずにスタジオですべて撮影を行うといったやり方が主流になってきています。朝の景色から夜の景色に一瞬で変えられるなど、時間帯を気にしなくていいですし、天候にも左右されません。リアルタイム連動もできるので、舞台と映像のミックスにも活用できます。最近は、日本でもUnreal Engineが使われるようになってきているので、早く勉強しなければと思っていますね」

――ソニーグループでも現在、クリエイターに向けた映像ツールとして、ボリュメトリックキャプチャ技術など、映像体験を広く打ち出す新しい技術を開発中です。このような技術を自由に使えるとして、小西さんならどのような作品づくりにいかしますか?

「私は、空間がまるごと移動していくような、没入感のある映像が好きなんです。新しい技術を使って3Dで映像を流せば、例えば『空を飛んでいる』ような、非日常の体験を提供することができるのではないでしょうか。最近では、中国を中心に、3Dに見える飛び出すデジタルサイネージ広告がトレンドになっています。私も、中国の空港に飾る映像の仕事で同じような手法を用いた作品を制作しましたが、このような映像表現は、今後日本でもトレンドになるはず。なので、奥行きのある映像もどんどん作っていきたいですね」

CG映像の未来像を模索する

――これまで、個人で作品を制作されてきましたが、今後、技術力があるチームと組んで制作するようなことは考えていますか?

「そのような依頼をもしいただけるなら、ぜひ挑戦したいです。知識や技術が豊富な方々とコミュニケーションを取りながら制作することで、作る映像の幅も広がっていくと思うので。勉強のために、海外のクリエイターのオンライン授業を受けていますが、そこで知り合った受講生たちと、『こんなものを作ったよ』とSNSで披露し合うことがあります。オフラインでも、お互いにいい情報をシェアできて、刺激を与え合える仲間ができると心強いですね」

――最後に、今後の展望や、構想しているプロジェクトがありましたら教えてください。

「現在、Cinema 4Dを使った映像制作を教えるオンラインクラスを準備中です。また、Unreal EngineやHoudiniなど難しいソフトの勉強も進めていきたいと思っています。新しい技術を扱えたり、新しい表現ができたりすると、それ自体が仕事になる。みずから積極的に発信し、それらの作品を起点として『小西さんらしい映像を作ってください』と言われるような仕事をしていきたいですね」

CG映像の未来像を模索する

映像技術の進化とともに、その表現はより多様化しています。新たなクリエーションが常に求められる世界だからこそ、先進の技術を学ぶ必要があると、小西さんは語ってくれました。多くの人を魅了する映像の世界は、今後どのように変化するのでしょう。小西さんの作品とともに注目していきたいと思います。

CG映像の未来像を模索する

小西 芽衣

Yahoo! JAPAN、Amazon Japanを経て、フリーランスのCGアーティストとして活動を始める。 ROCK IN JAPAN FESTIVAL、COUNTDOWN JAPANなど国内最大級の音楽フェスのCG映像を担当。 スターバックスでの個展や、International art fairやSICF、上海ART BOOK FAIRなど国内外で展示を行う。 アジアデジタルアート大賞、CSS DESIGN AWARDS "SPECIAL KUDOS"、DESIGN AWARDS ASIA "DESIGN OF THE DAY"など受賞歴多数。2020年、2021年版の「映像作家100人」に選出された。

GENERATIVE ART STUDIO
https://generativeartstudio.tokyo/

twitter

facebook

映像制作機材

  • Spectee

メールマガジンの登録はこちらから

B

ビジネス・ソリューションのミライを考えるWEBマガジン『B.』

Copyright Sony Marketing Inc.

TOP